第11話 ドキドキ吹雪

「さ……寒い……衣が凍る……冷凍アジフライになっちまう……」


「アッツ、気を確かに持ってください!」


「『熱は油をそそのかし』――」


「『熱狂油界オーバーフライ』の無駄遣いはすんだぜ!」


 吹雪が一行を包み込み、全員の体温とアッツの集中力を奪っていく。

 視界も最悪。雪で視界は塗りつぶされ、風で両眼はもてあそばれる。

 えてして危険というものは、そういうときにこそ忍び寄るもので――


「うおっ!? 魔物モンスターだ!」


 アッツが正気に戻り、自慢の視力で魔物モンスターの姿をとらえた頃には、すでに複数の魔物モンスターに囲まれていた。


「くそっ、この数はキツいんだぜ!」


 声もなく、獲物を狩る単純作業とでもいうように、淡々と襲いかかってくる魔物モンスターに、ジュウシは悪態をつく。

 直接の戦闘能力がないプリムを除いて、戦力はアッツとジュウシのただ2人。プリムを守りながら複数の相手をするのは、困難であった。


「『イラフジア』『イラフジア』『イラフジア』――ッ!!」


 アッツは詠唱を短縮したイラフジアを連発し魔物モンスターを蹴散らすが、全方位をカバーすることはできない。

 アッツとジュウシが必死に作った壁の隙間を抜け、魔物モンスターがプリムに手を伸ばす。


「きゃっ――!」


「プリム!!」


 やったことはないが、ぶっつけ本番、大魔法の熱狂油界オーバーフライを無詠唱で無理やりぶっぱなそうか。アッツがそんな乱暴な考えすら抱いた、そのときである。


「――『鯖〆斬サバシメギリ』」


 銀閃が、きらめいた。

 真っ白な雪の中にあって、なお輝きを放つ、鮮やかな白銀の閃光。それはいっそ、吹雪を切り裂いているかと思うほどに、美しいものであった。


「この技は――!」


 アッツは目を見開いた。その銀閃に見覚えがあったのだ。吹雪の轟音の隙間から小さく聞こえてきた呟きに、聞き覚えがあった。


「まさか、なんで、こんなところに――」


 幾重にもきらめいた銀閃が収まり、魔物モンスターもいなくなったあとの雪の大地には、


「サック・サバフライ!!」


 刀をたずさえたサバフライ一族の少年が、静かに佇んでいた。


「……きみこそ、こんなところに女の子を連れて、何しに来たんだ。アッツ・アジフライ」


 アッツの幼馴染にして、幼少のころよりのライバル。サバフライ属性魔法剣士、サック・サバフライがそこにいた。


「ここのてっぺんに、剣聖がいるっていう話を聞いてさ!」


「ああ……きみもか。きみなら、彼のやり方にも、合うかもしれないね」


「剣聖に会ったのか!?」


「うん。剣聖は実在したよ。ただ……」


 サックは刀を鞘に収め、ため息をついた。


「それは僕の求める強さじゃなかった」


 そのままサックはアッツ一行の脇を通り過ぎ、ふもとの方角へ向かっていこうとする。


「どういうことだよ? 大したことなかったってことか?」


「いや、彼は強かったよ。強すぎるほどにね。……余計なところまで、強すぎるんだ」


 サックがかすかに身震いしたことに、幼馴染のアッツだけが気づいた。寒さによる震えでは、なさそうだ。


「そっちの方角にまっすぐ行けば、やがて吹雪が晴れる。魔物モンスターも、警戒を怠らなければ、大したことはない。その先に、剣聖がいる。きみ自身の目で確かめてみなよ。僕は二度と見たくないけどね……。」


 サックは、妙にすすけた背中を上下させながら、ひとりで吹雪の中を進んでいく。


「あっ! サックさん! 助けていただき、ありがとうございました!」


 プリムの言葉に、手をひらひらと振るだけの返事をしたサックは、白いカーテンのむこうに消えていった。


「サック、なんか元気なかったな……昔からクールなやつではあったけど」


「不思議な感じのヤツなんだぜ。それはさておき、先を急ぐんだぜ。道も教えてもらったことだし、早く吹雪を抜けちまわないと」


「おお、そうだった! さむいさむい……」


 一行は、魔物モンスターへの警戒を強めながらも、寒さに追い立てられるように、早足で山頂に向かうのであった。

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