第2章 吹雪吹き荒れる山、頂に

第10話 ワクワク登山

 サクサク街道を外れ、ジュワジュワ山脈方面へ。ジュワジュワ山脈で最も高く、目立つ山が、テンドン山だ。

 ジュワジュワ山脈は、黒々とした溶岩の鎧の内に、煮え滾るマグマが脈動する、揚げたてアジフライのような活火山帯なのだが、テンドン山だけは例外だ。

 真っ黒な山々の中で、テンドン山の山頂だけが、雪と雲に覆われ、純白に浮き上がっている。その様は、天より片栗粉をまぶされたかのよう。躍動する火山の中にあって、テンドン山の時間だけが、止まっていた。

 このテンドン山の異常のわけは、数十年もの昔、件の剣聖が、テンドン山の頂に住んでいた、荒れ狂う溶岩龍ラーヴァ・ドラゴンを打ち倒したからだとされる。


「うおお……すっげぇ……チョコ菓子みてぇだ……。」


「アッツ、見とれてる場合じゃ無いんだぜ。荷物の確認をするんだぜ」


「おおっと、そうだったな。なんせ登山だもんな。ええと、剣と、リュックに、お金もあるし、水と食料。砂糖、塩、酢、醤油せうゆ、ソウルブレイカー。うん、全部そろってる! けど、これで登山できるのか?」


「オッケーなんだぜ。もろもろの登山用品は俺が持ってるんだぜ。不安ならみんなに小分けしとくが、どうするんだぜ?」


「いや、ジュウシを信じるよ。ジュウシが脱落するような登山なら、そもそも俺たちには無理だしさ」


「俺はむしろ、アッツが迷子になってはぐれるほうを心配してるんだぜ。プリム、アッツの手綱をしっかり握っといてほしいんだぜ」


「かしこまりました! アッツ、私から離れないでくださいね!」


「ええ! みんな、ひどい」


 すっかり仲良くなった一行を乗せた馬車は、テンドン山のふもとの村に到着した。


「あ、馬車はどうするんだぜ?」


「ああ、これ、馬じゃないので、放置で大丈夫ですよ」


「何なんだぜ?」


「馬型のソウルブレイカーです」


「ああ、なるほど」




「『イラフジア』!」


 山を住処とする魔物モンスターが一行を襲うが、アッツが魔法で追い払う。魔物モンスターの凶暴化にも、にゃん黒軍団が一枚噛んでいるらしい。


「しかし、モンスターは出るけど、意外と吹雪ふぶいてないんだな」


「不思議なことに、吹雪は山頂付近だけなんだぜ。8合目あたりから嫌というほど吹雪くんだぜ」


「ふーん。そんなところで、よく剣聖さんは暮らせるよな」


「さあ、そこらへんも含めて、どういうカラクリなのか、全く分からないんだぜ。そもそも、剣聖が住んでるっていう話自体、ウワサでしかないんだぜ」


「そうなのか。まあ、剣聖さんがいなかったとしても、登山自体が修行になるし、ダメ元でいこうぜ」


 そんな会話を交わしながら、一行は、着々と、ジュウシの示した登山ルートを進んでいく。

 会話の余裕がなくなってきたのは、ジュウシの話の通り、8合目にさしかかってからであった。

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