第9話 俺たちの冒険はこれ唐揚げ

 ギトニャンの脅威が去ったフライタウンは、すぐに元どおりになった。

 フライ森も、にゃん黒軍団が少々散らかしていっただけで、オイルツリーへの被害は軽微。熱狂油界オーバーフライの熱に焼かれたオイルツリーがちょっと傷んだ程度で済んだ。

 そして、戦いを終え、報奨金と、借りていた剣をもらい受けたアッツは、フライタウンから旅立とうとしていた。

 戦友であるプリムとジュウシも、その見送りに来ていた。


「次は、どちらへ向かわれるのですか?」


「テンドン山、っていうところだよ。そこの山頂に、剣聖っていう、すっげぇ強い人がいるらしいんだ。そこで、修行したり、けいこをつけてもらったり、あわよくば、弟子にしてもらったり、できないかなぁ、なんて」


「修行、か。アッツ君は、強くなりたいのかい?」


「うん。今回の件で分かったんだ。魔法剣士だなんだと威張ってたけど、俺なんて、まだまだなんだなぁ……って」


 剣が中途半端。ゆえに、肝心の魔法も、まともに詠唱する時間が作れない。皮肉にも、敵たるギトニャンに教えられる形となった。


「だから……強くなりたい。そしたら、今回みたいなことがまた起こっても、犠牲を出さずに解決できるかな、って、思うんだ」


「わ、私も!」


 プリムが、珍しく、声を張り上げる。


「私も行きます! 私も、今回の件で、神官なのに、いけにえになるなんていう、命をそまつにする道を選ぼうとしてしまって、修行不足を痛感しました。ですから、どうか、お供させてください! 馬車も、お役に立てると思います!」


「もちろん、いいよ! 旅は道連れ、っていうもんな!」


「うーん、そういうことなら、俺も行くんだぜ」


 ジュウシも手を挙げる。


「テンドン山は険しいし、山頂付近には吹雪が吹き荒れてて、素人には危険なんだぜ。剣聖に会ったことはないが、昔よく登ったから、登山ルートの案内くらいはできるんだぜ。フライタウンを救ってくれた恩返しもしたいから、よろしく頼むぜ」


「ああ、こちらこそよろしくだぜ、ジュウシ!」


「俺の口調を真似しないで欲しいんだぜ」


 アッツたちの間に、笑いが起こる。

 外の常識を知れた。仲間もできた。自分の課題も分かった。事件はあったものの、実り多き戦いであったと、アッツは思うのであった。




【第1章 井の中のアジ大海を知る】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る