第4話 魔法剣士アッツ・アジフライ
にゃん黒軍団。それは、アゲモノ大陸に魔手を伸ばす、悪の軍団である。
一言で表すならば、猫。彼らは、猫の姿をとる。しかし彼らはただの猫ではない。塩分過多、高カロリー、ギトギトの油、その他もろもろの猫にとって毒となる要素を克服した、ハイスペック猫なのである。彼らにとって、アジフライやサバフライ、天ぷらなど、アゲモノ大陸の主な住人は、総じておいしいエモノでしかない。頭からサクサクいかれてしまうであろう。
という事情を、アッツはプリムに聞いて初めて知った。
「そんな悪いやつらが、フライ森を乗っ取っているんですか」
「ええ。おそらく、オイルツリーが目的なんでしょう。油自体もそうですが、フライタウンの生命線をおさえるという狙いもあるかもしれません」
オイルツリーの植物油はフライタウンの主要産業。これを失えばフライタウンは確実に衰退するのだ。
「なんてやつらだ……よし!」
アッツはリュックを馬車の荷台に降ろし、剣だけを持って馬車を飛び出した。
「待ってアッツさん、どこへ行かれるの?」
「決まってます! にゃん黒軍団を倒しに行くんですよ!」
「危険です! 一人で
「大丈夫!」
アッツは振り向き、最大限にさわやかな笑顔で言い放った。
「だって俺……魔法剣士ですから!」
土地勘のないアッツにも、フライ森の場所はすぐにわかった。
「おい、にゃん黒軍団! 出てこい!」
森に入ったアッツが叫ぶと、茂みから、2つの影が這い出てきた。
「なんニャなんニャ?」
「アジフライニャ。活きがいいニャ」
「バカニャ。アジフライは死んでるニャ」
「バカっていう方がバカニャ。アジじゃなくてフライの活きがいいって言ってるニャ」
「ニャニャ! アジフライとその元になったアジは別存在ニャ!? 謎ニャ。恐怖ニャ。SAN値削られるニャ」
雑談しながら出てきた2匹の黒猫。にゃん黒軍団の兵士猫である。
「何をごちゃごちゃと! おい、お前ら、にゃん黒軍団だろ! フライ森を返せ! さもないと……俺が、倒す!」
アッツは剣を抜き、構えた。
「ニャハハ。バカニャ。ミーたち以上のバカニャ」
「一人でにゃん黒軍団に勝てるわけないニャ」
「こんなバカ、ボスに報告するまでもないニャ」
「やっちまえニャ!」
2匹の黒猫が、アッツに飛びかかってくる。
「交渉カツレツ、だなッ!」
アッツは剣を横薙ぎにふるう、が、黒猫たちはひらりと身をかわし、鋭い爪をふりかざす。
アッツも素早く対応し、1匹は振った剣を引き戻して弾き、もう1匹は蹴飛ばした。
黒猫たちが距離をとり、戦いは振り出しに戻る。
「むむ。剣士ニャ。意外にやるニャ」
「でも中の上程度ニャ」
黒猫たちは警戒しつつも、虎視眈々と攻撃の機会をうかがう。
「お前ら、勘違いしてるようだな」
対してアッツは、余裕の表情。
「俺は剣士じゃない……!」
アッツの身の内に、超常の力が渦巻く。
その力の名は――
「魔力……! アジフライ属性の魔力ニャ……!」
「おミャー……魔法使いだったのかニャ……!」
「それも違うな!」
アッツは、不敵に笑う。
「俺は……魔法剣士だ!」
アッツが練り上げた魔力が、うなりをあげる。」
「『
「呪文詠唱ニャ!」
「妨害するニャ!」
詠唱を断ち、魔法の発動を妨害すべく、黒猫たちが飛びかかるも、その目論見はアッツのふるった剣に阻まれる。
そして、魔法は完成する。
「――『イラフジア』!!」
魔法の発動とともに、空中にアジフライが出現する。魔法で生み出されしアジフライは、煮えたぎる油から今まさに取り上げられたばかりのアジフライのように、荒れ狂う熱を持ち、黄金色の衣はジュウジュウと音を立てながら泡立っている。
刹那、魔法のアジフライは爆散し、黒猫たちに灼熱の油が襲いかかる。
「ギニャー! 熱いニャー! 火傷したニャー!」
「労災ニャー! こんな職場こりごりニャー!」
火傷を負った黒猫たちは、たまらず逃げ出していった。
「よし……こいつらのボスのところまで、急ぐぞ!」
剣を振って油を落としたアッツは、森の奥に向かって駆け出す。
道中、騒ぎを聞きつけたにゃん黒軍団の黒猫たちが襲いかかってくるが、近づく者は剣、離れたものは魔法で蹴散らしていく。黒猫たちはなすすべもなく逃げ出していく。逃げ出す際の黒猫たちの捨て台詞の数々を聞くに、にゃん黒軍団の職場の待遇はあまりよろしくないらしく、忠誠心は薄いようだ。にゃん黒軍団の上層部には、給与のネコ缶を増やす検討をすることをお勧めする。
しばらく黒猫たちをブラック企業の呪縛から解き放っていると、野太い声が聞こえてきた。
「そこのアジフライの小僧! 止まりやがれ!」
声の主の姿を一目見たとき、アッツは確信した。
こいつが、ボスだ。
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