第3話 出会い
振り向いて声の主の正体を確かめようとしたアッツの目に、美しい少女の姿が飛び込んできた。
黄金色の優美な衣。たおやかでありながら弾力豊かな身がつまっていることがわかるボディライン。
あふれ出んばかりの少女の気品に、アッツは、言葉を失った。
「あ、き、君は……。」
「あら、突然話しかけてごめんなさい。私はプリム・エヴィテン。巡礼の旅をしている、神官です」
プリムは、名乗り、上品に一礼した。プリムから漂ってきたやわらかな油の香りが、アッツを正気に戻した。
「あ、えと、俺、僕は、アッツ・アジフライです」
「うふふ。そんなに硬くならなくてもいいんですよ。神官といっても、まだまだ揚げたてのひよっ子ですから」
「そ、そうですか」
エヴィテン一族。天婦羅神を主神として敬う、信仰あつき種族である。
中でも神官は、慈悲深き天婦羅神の加護を得て、傷や病を癒す回復の魔法を扱うことができる。
「旅の方のようですが、どうなさったんですか?」
「あー、街への入り方が分からなくて……。」
「ああ、そういうことでしたら、大丈夫ですよ。フライタウンなら、簡単な荷物検査だけで入れますから」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「うふふ、どういたしまして。よろしければ、ほんの少しの距離ですけれど、馬車に乗っていかれます?」
「そんな、悪いですよ」
「いえいえ、大きな馬車に私一人で、寂しく感じていたところだったんです。是非」
好意を無下にすることもできず、アッツは馬車に乗り込んだ。立派な馬車だ。確かに巡礼の神官が一人で乗るような馬車ではない。そう思って話を聞けば、女の一人旅を心配したプリムの親戚から贈られたものらしい。
互いの旅について会話を弾ませているうちに、馬車は門に到着し、本当に簡単な積荷検査の後、問題なくフライタウンに足を踏み入れた。
門を通過したあとも会話は続き、プリムはフライタウンの案内までしてくれた。ここがメインストリートで、あちらは市場。現地人かと思うほどの詳しさであった。プリムは巡礼の神官であり、基本的にひとところに留まることはないが、フライタウンだけは別で、しばしば訪れているのだという。
「好きなんです。ここの、穏やかで、優しい空気が。私も、落ち着いた気分になれるんです」
そう言って深く息を吸い、目を細めるプリムの横顔は、確かに、穏やかで優しい顔だと、アッツは思った。
「それにここは、良質な植物油がとれることで有名なんですよ」
その話にはアッツも聞き覚えがあった。母が美容のためにと、フライタウン産の植物油を欲しがっていた記憶がある。塗ってよし、食べてうましの一級品だ。
「近くにあるフライ森に、オイルツリーという珍しい木が生えていて、樹液がそのままオイルになるらしいですよ」
それはすごい、現物を見てみたい。アッツの知的好奇心が飛び跳ねた、その矢先のことである。
「大変だー!」
フライタウンの住人だろうか。大きな瓶を担いだ男性が、血相を変えて叫びながら、街に転がり込んできた。
「フライ森が……にゃん
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