第1章 井の中のアジ大海を知る

第1話 旅立ち

「アッツ、忘れ物はない?」


「ええと、剣と、リュックに、お金もあるし、水と食料。砂糖、塩、酢、醤油せうゆ、ソウルブレイカー……うん、全部そろってる!」


「そう。じゃ、長い旅になるだろうけれど、気をつけて、行ってらっしゃい」


「うん! それじゃ、母さん、食えドボドボアジお刺身中川アジむむ…フライドボドボ岡星食え食えお刺身お刺身! あ、ちがった、いってきます!」


「もう、アッツ。里の外ではアジフライ語は通じないんだから、ちゃんと共通語を話さなきゃだめよ」


「へへ……気をつけまぁす」


 若い声をあげて旅立ったのは、アジフライ一族の少年、アッツ・アジフライ。空はよく揚がったアジフライのごとくカラッと晴れ模様で、彼の旅立ちを祝っているかのようだ。

 母に別れを告げたアッツは、アジフライの里の入口にして出口である、小洒落た装飾の門へ向かう。

 門を出て数歩進めば、そこはすでに里の外。旅人や行商の行き交う、アゲモノ大陸のシルクロード、サクサク街道だ。

 青々とした草原に走る、天ぷら衣色の長くまっすぐな道が、アッツを冒険にいざなっていた。


「見つけるぞ……この広い世界で、俺にしかできない、ただ、ひとつを!」


 揚げたてのアジフライのようなアツアツの夢を胸に、アッツ・アジフライは、長い冒険への一歩を踏み出した。

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