SF×日本昔ばなし×散文詩

主人公は宇宙人にさらわれた地球人。物語は、宇宙船が事故に遭い、捕獲者とたったふたりで別宇宙に取り残されてしまった、という場面から始まります。捕獲者であるところの宇宙人は奇妙な主張をするのですが……。
日本昔ばなしの『善知鳥(うとう)峠』を下敷きにした作品のようです。『善知鳥峠』とSFを融合させようという試みもエッジが効いていますが、何より本作の特徴は文体です。小説というよりは散文詩とでもいうような、滑らかな独白調です。その文体でもってとても重大なテーマを提示しているように思えて、しかしその実体はつかめない、なんとも歯がゆいような不思議な魅力があります。雰囲気は幻惑的ですが、題名、宇宙人の言語等々、緻密に設定されていると思います。
しっとりした物語ですが、“私はしかたがなく「ウトゥーウトゥー」と言い、、両腕を広げ適当にばたばたとする。”などというところはユーモアもあって好きです。文章をさらに精査すると、いっそう優れた作品になるのではと感じました。