第27話
HARDBOILED SWING CLUB 第27話
ラッキーとサムは「HARDBOILED SWING CLUB」で来週に迫ったREBELERSのイベント「HARLEM SHUFFLE」の最終打ち合わせをしていた。
ラッキーはいつものハードなウォッカ「この世の果て」、そしてサムはカクテル「MY BABE」のグラスを片手に、キングと予算内でどんな料理を出せるかを話し合っていた。
「酒、チキン、ポテト、サラダ、ピザ・・・ってところですか?」
ラッキーはキングに言った。
「まぁ、そんなとこでいんじゃないか?あまりフードを用意してもなぁ・・・結局、お前達は酒が飲めればいいんだろ?」
キングは笑いながら言った。
「ですね」
ラッキーも笑いながら答えた。
「で、結局は何人来るんだ?」
キングはサムに聞いた。
「REBELERSのメンバーで30人、あとはフライヤーやチケットで来るお客さんで60人くらいっすね」
サムは走り書きがしてある紙切れを出して、数を数えながらそう言った。
「結構な人数だなぁ・・仕込みが大変だよ」
キングは笑いながら溜息を吐き、着ていた黒いビンテージのレーヨンシャツの胸ポケットから、クシャクシャになった煙草を1本取り出して、オイルライターで火を点けた。
「色々とスイマセン!」
ラッキーはキングにそう言った。
「ああ。任せとけ」
キングは大きく煙草の煙を吐きながら言った。
「サムはレコード、集まったの?」
ラッキーは隣に座っているサムに聞いた。
「探し回って集めたレコードばかりだぜ!給料のほとんどをつぎ込んだんだから。今回のハーレムシャッフルはブルースとソウルで真っ黒に塗りつぶしちまうよ」
サムは右手の親指を立てながら、ラッキーにそう言った。
「了解、頼んだよ!あとは・・メンバーにも連絡したし・・とりあえずは当日ってところですか?」
ラッキーはキングを見ながら呟くように言った。
「そうだな」
キングは空になったラッキーのグラスに「この世の果て」を注ぎながら言った。
「キング、俺達はMIDNIGHTSに憧れてたんで・・この「HARDBOILED SWING CLUB」でしかチームイベントはやりたくないんです。宜しくお願いします」
ラッキーはキングにそう言いながら、「この世の果て」を一口飲んだ。
「ありがとよ」
キングは照れたようにラッキーにそう言った。
・・・何年前はキングがリーダーの「MIDNIGHTS」がこのHARDBOILED SWING CLUBでよくパーティーイベントを開催していた。
店の外に並ぶ古いモーターサイクル・・・
そしてペパーミントグリーン、ピンク、ブラック・・様々な色で塗装されたアメリカのビンテージカー・・
ブラックレザーとスカルマークに身を包んだMIDNIGHTSのメンバー・・
甘いグリースの香りとムスクの匂い・・
店内で大音量で流れるオールドロックンロール・・
若かったラッキーにはその全てがギラギラして見えていた。
REBELERSのメンバーはサムも含め、その「MIDNIGHTS」に憧れていた若い連中ばかりだ。
MIDNIGHTSはその頃にすでに終焉へ向かっていた時期ではあったが、ラッキーやサム、REBELERSのメンバーにはクールな大人の不良達というイメージのままだった。
ラッキーはキングの足にタトゥーが入っているのに憧れ、キングと同じ「WOLF GANG TATTOO STUDIO」で背中にトラディショナルスタイルのタトゥーを入れたりもした。
ラッキーはキングと同じ煙草の銘柄、同じメーカーのレザージャケット、同じブーツ、同じようなビンテージのシャツ、同じウォレット・・・とキングが持っているものを何でも真似をした。
一途に義理や情を守るラッキーの性格もあってか、キングは社会に対して不器用なラッキーを弟のように可愛がっていた。
「お前は変わらないな」
キングは呆れたようにラッキーに言った。
「キングも昔から何も変わらないじゃないですか」
ラッキーは悪戯っ子のような目をしてキングに言った。
「いや・・・白髪が増えたし、目も老眼気味だ」
キングは笑いながらラッキーにそう言った。
「老けてもキングはキングですから」
ラッキーはそう言って、キングに空になったグラスの中の氷を振ってみせた。
「あいよ」
キングは空になったラッキーのグラスに「この世の果て」を注いだ。
ラッキーはキングに軽く会釈をして、グラスを口に運んだ。
「あ、そうそう、ジュリアは来るのかい?」
隣に居たサムが思い出したようにラッキーに聞いた。
「いや。まだ退院までは時間がかかるらしい。でも、大分歩けるようになってるって手紙では書いてあったよ」
ラッキーはサムに言った。
「そうかぁ・・・良かったな、ラッキー。」
サムは「MY BABE」を飲みながら、しみじみ言った。
「ありがとう。・・・サムのおかげだよ。」
ラッキーはサムの肩を「ポン」と叩いて、頭を下げた。
「わかった、わかった。こっちが恥ずかしくなっちゃうよ」
サムは恥ずかしくなったのか、「MY BABE」を一気に飲み干した。
そんな二人のやりとりをキングは笑いながら見つめていた・・・。
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