第26話

HARDBOILED SWING CLUB 第26話





一週間後。




ホワイトはいつものように事務所の白い革のソファーで書類に目を通していた。




ソファーの横にはまだホワイトがチェックしてない書類の束が置いてあり、テーブルの上にはホワイトがチェックし終わった書類が左右二手に分かれていた。




ホワイトは手に持っていた書類に目を通すと、それを「右」の書類の束の上に放り投げた。




ソファーの横にある次の書類にホワイトは目を通した。




「チッ!」




途中まで書類に目を通したホワイトは舌打ちをして、その書類をまた「右」の書類の束の上に乱暴に投げた。




左の書類の束は少なく、右の書類の束は山積みになっていた。




「左」はブライトンに依頼せずにやれる仕事、「右」はブライトンに依頼し、警察などの動きを止めなければならない仕事に分けられていた。




(ブライトンへの報酬が今までの倍だと利益にならない・・・しかし、他の政治家では使い物にならないし、警察にここまで太いパイプがあるのはブライトンしかいない・・・)




ホワイトは苛立ちながらも何か策を考えていた。




「トントン!」




事務所のドアをノックする音が聞こえた。




「入れ」




ホワイトはチェックする次の書類に手を伸ばしながら、言った。




「失礼します」




ドアが開き、緊張した表情のホークが事務所に入ってきた。




「どうだ?」




ホワイトは鋭い目をしながら、ホークにそう言った。




「ボスの読みが当たりました」




ホークは低いトーンでホワイトに言った。




「そうか・・。詳細を聞かせてくれ」




ホワイトは書類をテーブルの「右」に投げ捨てながら、ホークに言った。




「はい。まずは市長選を控えたブライトンは「ある組織」と手を組んだと思われます」




ホークは直立でホワイトに言った。




「・・・ブラックシュガーだろ」




ホワイトはホークに聞き返した。




「はい。ボスの言う通り、ブラックシュガーです」




ホークはホワイトにそう言った。




「・・・・」




ホワイトは黙っていた。




今までホワイトの高額な謝礼に満足していたと思われたブライトンの手を返したような先日の行動にホワイトは疑問を感じ、この一週間のブライトンの行動を調査するようにホークに命じていた。




「ブラックシュガーは表向き、ブルームタウンに30件以上の店舗、企業、会社組織を持っていて、グループ会社として成り立ってます。




しかし、調査の結果は実質30件以上が会社として登録はしているものの、その会社の登録している業種として稼動してる形跡はどの会社にも見当たりません。




ブラックシュガーは「会社」を隠れ蓑に違法カジノ、売春宿、薬物密売なども大きく展開していて、それが多大な収益になっているようです。」




ホークはホワイトにそう言った。




「まぁ、こちらと同じ形態だな。それで・・・ブラックシュガーはこれからこちらと同じような「仕事」をしていくということか?」




ホワイトはホークに聞いた。




「ええ。ブライトンがすでに動いている事件が何件かあります。先日、表向きは自動車事故として処理された件があったのですが、ブライトン、そして総監が動いた形跡があります。




その被害者はブラックシュガーに籍を置いている社員で保険金はブラックシュガーグループの「会社」に振り込まれてます。そこからその被害者の家族に金が動いた形跡はありません」




ホークはホワイトに言った。




「なるほど・・・そのパターンか。




・・・ウチと同じだな、ホーク。




で・・





お前がブラックシュガーに寝返った理由はなんだ?」





ホワイトは鋭い目でホークを見つめながら言った。




「はっ?」




ホークは突然のホワイトの言葉に驚き、戸惑った表情をした。




「俺が知らないとでも思っていたのか?」




ホワイトは顔を強ばらせているホークに冷たく落ち着いた口調で言った。




「どうしたんですか?ボス?・・何でそんなことを・・・」




ホークは動揺し、慌てながらホワイトに言った。




「「誤解」じゃないのはお前が一番わかっているんじゃないのか?




先日、ブライトンが俺に直接電話をしてこないで、お前と連絡を取っていたことに勘が働いてな。




お前にブライトンを調べさせてる間、お前を全て調べさせてもらった。




自宅、車にも盗聴器を仕掛け、毎日の行動も全て尾行させてもらったよ。




ブラックシュガーに唆されて、こちらの情報を全て流してたらしいな?




ブライトンまで抱き込み、グルになって俺を潰そうとしただろ?




あ?




そうだろ、ホーク?」




ホワイトは左胸のポケットから小型のコルトを取り出しながら、ホークに言った。




「いや・・ボス、誤解です!!俺がボスを裏切るはずは・・・」




ホワイトが銃を構えたことに慌てたホークはうろたえ、大声で叫んだ。




「バン!!」




ホワイトは怯えるホークに躊躇せず、右手に握ったコルトでホークの左腿を撃った。




弾丸はホークの左腿を貫通し、見る見るうちに血が吹き出してホークの左足は血まみれになった。




「ボス!ボス!やめて下さい!!違う!!俺は知らない!!」




ホークは床に倒れ、左足から吹き出す血を両手で押さえ、転がりまわってホワイトに向かって叫んだ。




「知らないはずはないだろ・・・次は頭だ」




ホワイトはソファーから立ち上がり、激痛でもがき苦しむホークのところにゆっくりと歩いた。




そして倒れているホークの右足をホワイトは踏みつけて屈んだ姿勢になり、そのまま表情も変えずにホークの額にコルトの銃口をピタリと押し付けた。




「・・・何故、裏切った?」




ホワイトは冷たい目をして、ホークにそう呟いた。




「・・・・」




ホークは目を見開き、歯が「ガチガチ」と音をたててるくらいに震えていた。




「言え。何故だ?」




ホワイトは涼しげな表情でホークにもう1度、聞いた。




「・・・・こ、怖かったんです・・」




ホークは震える声でホワイトに言った。




「何が?」




ホワイトはホークに聞き返した。




「ブ・・ブラックシュガーに脅されたんです・・裏切るつもりはなかった・・・信じてほしい、ボス・・・撃たないで・・」




額、顔、全体から脂汗を吹き出し、怯えているホークは震えながら言った。




「・・・・・・」




ホワイトは思い出したように大理石の暖炉の上に飾ってあるアンジーの写真に一瞬、視線を向けた。




(・・・アンジー、こいつもお前と同じだ・・・何が怖い?誰が怖い?何故、俺を裏切る?俺の何が悪い?・・・何でお前達は俺を裏切るんだ?)




ホワイトは心の中でそう呟いた。




そしてマジマジとホークの顔を見た。




顔の毛穴という毛穴から汗が噴出し、ガクガクと大きく震え、怯えたように目を見開くホークの顔にホワイトは奇妙で滑稽なものを感じていた。




「・・・・・」




ホワイトは黙ったまま、ホークのの額に当てていた銃を左胸のポケットにゆっくりと戻した。




「ハァ・・・フーッ・・・ハァ・・・フーッ・・・」




ホークはホワイトが銃をポケットに入れたことに安堵し、体全体の力が抜け大きく肩で息をした。




「出て行け。」




ホワイトは立ち上がって、ホークに言った。




「・・・・ボス、ボス・・許してください・・ボス!」




ホークは涙を浮かべながら、ホワイトに懇願した。




「・・・1度、裏切った人間はまた裏切る。




信じることはできない。




ブラックシュガーで雇ってもらえ。




どうせ金で寝返ったんだろ?




・・・お前には世話になったな、ホーク。」




ホワイトはいつものように静かにホークに言った。




「ボス・・ボス・・・許してください・・・本当に!・・魔が差したんだ・・魔が差したんだよ・・」




ホークは呟くように涙声で言った。




「出て行け。」




ホワイトはホークを言葉を遮るように言った。




「・・・・」




ホークは項垂れ、首を振った。




「・・・・」




ホワイトは床に倒れこみ、一向に出て行く気配を見せないホークを黙って見続けた。




そして、また大理石の棚にあるアンジーの写真に視線を向けた。




(・・・俺は誰も必要ない。アンジー、もうお前との思い出も必要ないかもな・・・サヨナラだ。)




ホワイトはそう心の中で呟き、左胸のポケットから再びコルトを取り出してアンジーの写真を撃った。




「バゴッ!!」




事務所の中で轟音が鳴り響いた。




「ヒーッ!!」




ホークは悲鳴を上げてその音に体を萎縮し、慌てて耳を塞いだ。




棚の上で金のフォトフレームと共に「アンジー」の写真は粉々に砕け散った。




ホワイトは黙ってその残骸を見つめ続けていた・・・。



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