第18話
HARDBOILED SWING CLUB 第18話
ラッキーとサムはジュリアがいる町、ポンパドールまで出発した。
ラッキーはトラックを運転しながら、いつものメンソールの煙草を咥えていた。
助手席にいるサムがそれを見て、胸のポケットからオイルライターを取り出してラッキーが咥えた煙草に火を点けた。
「サンキュー、サム」
ラッキーは前を見て運転しながら、サムに言った。
「ああ」
サムは笑顔でそのまま、自分もポケットから煙草を一本取り出して火を点けた。
「・・・フーッ」
サムは深呼吸のように煙草の煙を吐き出した。
「ところでさ、唐突なんだけど・・・ラッキーはジュリアが好きなの?」
サムはトラックのフロントガラスに広がる景色を見ながら、ラッキーに言った。
「ブフッ!ゴホッ・・・ゴホッ!」
ラッキーはサムの単刀直入な質問に咽てしまった。
「・・・好きなんだろ、ジュリアがさ。」
サムはニヤニヤしながら咽ているラッキーに構わず言った。
「ゴホッ!・・・ん~、サムが考えてるような「好き」って感情ではないよ」
ラッキーは息を整えながら、サムの質問に答えた。
「だって、確かにラッキーの代わりに配達したジュリアが事故に遭ってしまったかもしれないけど・・・1年近くも何の感情もなく・・責任感だけで・・連絡もしないで金を送る・・ってのが俺には理解できないからさ。」
サムはラッキーにいつか聞こうと思っていた質問をしてみた。
「・・・まぁ、そうだよね」
ラッキーは口篭った。
「ラッキーがジュリアを好きなら俺は応援したいから聞いてるんだよ。ラッキーはこの件に関してはいつも話してくれないから」
サムはラッキーにそう言った。
「・・・うん。・・・ゴメンな」
ラッキーはサムにそう言った。
「ジュリアは良い女だとは思うけど・・・・俺のせいで事故に遭ってしまった。その責任は俺にはあるし、歩けるようになるまで一生償わなかきゃいけないって思ってる。・・・だから「好き」とかじゃないんだよ」
ラッキーはサムにそう言った。
「じゃあ、ジュリアがラッキーのことを好きだったらどうだい?」
サムはラッキーに言った。
「ジュリアが?・・・うーん、そんなことはある筈ないよ。俺を恨んでるならわかるけどね」
ラッキーは溜息を吐きながらサムに言った。
「そうかなぁ?・・・俺は以前からジュリアがラッキーに好意を持ってるように思えてたけどなぁ。」
サムはおどけたように言った。
「・・・だとしても、俺はジュリアに好かれる資格はないよ」
ラッキーはサムにそう言った。
「何で?」
サムはラッキーに聞いた。
「・・・俺と付き合ったってさ、カッコよくもないし、どうしようもない男だし、仕事も朝から晩まででヘトヘトで、しかも安月給だもの。将来も明るい展望なんかないし、幸せになんかできないよ。俺と付き合ったって不幸になっちゃうよ」
ラッキーはそう言った。
「ワハハハ、仲間といる時のラッキーとはまるで逆の弱気な言葉じゃない?・・・随分とネガティブだなぁ」
サムは呆れた顔をして言った。
「だってそうだろ?サムもそう思わないか?」
ラッキーはサムに聞いた。
「・・・ラッキー君、君はまだ「女性の愛」の在り方というものを知らないんじゃないのかね?」
サムはおどけながらラッキーに言った。
「なんだよ、「女性の愛」の在り方って?」
ラッキーはサムに聞き返した。
「前に読んだ本に「男は所有、女は関係」って言葉があるんだけどさ。男はよく彼女や奥さんを「自分のもの」って認識があるから女が自分の思い通りにならないと怒ったりするんだって。それは男の「所有欲」から来るものらしいんだよ。」
サムは話を続けた。
「女はさ、自分の為に時間を取ってくれたり、何か小さなことでも自分を思ってくれた行動を男がすると嬉しいらしいんだよ。要は女が「愛」と感じるのは「関係」ってことらしいんだ」
サムはダッシュボードの灰皿を開けて、煙草を揉み消しながら言った。
「なるほどね・・・」
ラッキーはサムの言葉に感心しながら、そう言った。
「まぁ、その理論でいくとラッキーは経済力がない、将来性がない、自分はどうしようもない男だって言ってるのは男として女を「所有」するには「それ」が必要だからっていう「男の理論」で勝手に思ってるからであって、女にとってはあまり重要な部分じゃないかもしれないよ」
サムは2本目の煙草に火を点けながら、そう言った。
「ま、まぁ・・・そうだね」
ラッキーはサムの言葉に同意しながらも納得できない様子で答えた。
「もし女が「関係」を「愛」だと思うなら、ラッキーが言う「経済力、将来性」なんかは女からすれば二の次の話だと思わないか?」
サムは煙草を吹かしながら、そう言った。
「まぁ、そうだけど・・」
ラッキーはサムの言葉を考えながら、そう言った。
「その本にはさ、女は男と違って「愛」の為なら死ねるって書いてあるんだよ。「女は人生全てを「愛」に注ぐことができる生き物だ」ってね。・・・男はできないだろ?」
サムは両手で「お手上げ」のポーズをしながら、ラッキーに言った。
「まぁ、できないけどさぁ・・・女の人、全部がそうじゃないと思うけどなぁ・・・。その本、極論を言い過ぎじゃないの?」
ラッキーはサムの言葉にそう言った。
「ワハハ、俺もそう思うけどね。・・・だけど男の「見栄」や「プライド」、「自慢」なんてもんは女の前では全然役に立たない場合もあるよ」
サムはそう言って、話を続けた。
「まぁ、結局は何を言いたいかっていうと・・・ラッキーが責任を感じて、ジュリアにお金を送ったりっていう行動はジュリアからすればラッキーが「自分に好意がある」って捉えてる可能性があるってことだよ。さっきの「女は関係」って理論で考えたならそうだろ?」
サムは話を続けた。
「俺はジュリアがラッキーを恨んでたり、迷惑ならお金を送り返してくると思うんだけどな。ジュリアはラッキーが来るのをずっと待っていると思うよ」
サムは2本目の煙草をダッシュボードの灰皿で揉み消しながら言った。
「・・・・だから、そうであっても俺はジュリアと付き合う資格はないんだって。」
ラッキーは自信満々に持論を言うサムにあきれながら言った。
「わかった、わかったよ、ラッキー。・・・とにかく、1年振りにジュリアに会うんだから「悪いこと」も覚悟しておこうよ」
サムは真顔でそう言った。
「悪いこと?」
ラッキーは不安げにサムに聞き返した。
「ああ。第一にラッキーが言う通り、事故の原因はラッキーだと思って憎んでいるかもしれないってこと。第二に・・・」
サムは口篭った。
「第二はなんだい?」
ラッキーは口篭ったサムに聞いた。
「もう男がいたりするってことかな」
サムは3本目の煙草に火を点けながら、ラッキーに言った。
「・・・そうだよね。」
ラッキーは動揺を隠そうとして、慌てて2本目の煙草に火を点けた。
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