第17話
HARD BOILED SWING CLUB 第17話
「な、何を言ってるんだ!そ、そんなことをしたらこ、殺される!」
パイソンは驚いたようにエバに言った。
「殺されるって?あたしが?アハハハ!」
エバは10000ドルの小切手で顔を扇ぎながら、パイソンに言った。
「ほ、ほ、本当にダメだよ!せっかく10000ドルも、も、もらったんだから、脅すなんて、や、やめようよ!」
パイソンは脂汗を額に浮かべながら、エバに言った。
「あんたさぁ・・・何、ビビってんのよ。あんたに人を殺させた奴は「殺人教唆」って罪になんのよ。それを相手に教えてあげて、お金を頂くって話だけよ。」
エバは慌てるパイソンに向かって、見下げるように言った。
「だ、ダメだよ、え、エバ!本当にこ、殺されちゃうよ!!恐い人だから」
パイソンは懇願するようにエバに言った。
「ふ~ん・・・恐い人ねぇ・・・。あたしだって沢山知ってるわよ、恐い人。」
エバはそう言いながら悪戯っ子のような目をして、パイソンを見た。
「ほ、本当に!や、やめてくれよ!」
パイソンは念を押すようにエバに言った。
「はいはい、わかったわよ。・・・ったく、図体だけはデカイのに度胸ないんだから!」
エバは溜息を吐きながら、小切手に書いてある会社名を見た。
「株式会社ポートフロー」という判子が押してある。
(相手もこいつにやる小切手に実名の判子を押すほど、馬鹿じゃないわよね・・・)
エバは小切手を見ながら、そう考えていた。
ふと、ベッドの脇にあるゴミ箱に視線を向けた。
その中にはパイソンが小切手が入っていた封筒が捨ててあった。
エバは封筒に印刷してある「WHITE.CO.LTD」という社名を見逃さなかった。
(WHITE.CO.LTDかぁ・・・)
エバはその名前を記憶しながら、小切手をゼブラ柄のハラコのバッグに入れた。
「この小切手はありがたいただくわ。仕事を辞めて、あんたと暮せばいいのね?」
エバは面倒臭さそうに、パイソンに言った。
「・・・わ、わかってくれた、エバ?ほ、本当に脅すなんてやめておくれよ。そ、そのお金でこの町を出て、い、一緒にく、暮そうよ。し、幸せになろう。」
パイソンは感情が高まったのか、エバを引き寄せて力強く抱きしめた。
「・・・・・」
エバは自分を抱きしめるパイソンの肩越しから、壁に掛けてある錆びた扇風機を瞬きもせずに無表情で見つめていた。
(幸せになろう・・・か。何度、言われたか数え切れないわね・・・)
エバはそう思いながら、静かに瞼を閉じた。
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ここは67ストリートにある「エニシィング」の事務所。
ラッキーとサムは朝から配達の仕事が入っていた。
ラッキーは配達するダンボールを事務所の横にある倉庫から運び出している。
「おーい、サム!これをトラックに積んでくれ」
ラッキーはダンボールを何個も倉庫の外に運び出しながら、サムにそう言った。
「こんなにあるのかよ!?」
サムはウンザリしながら、ラッキーが運び出したダンボールを倉庫に横付けしてあるトラックの荷台に積み上げた。
「これ、どこに届けるの?」
サムはダンボールを持ち上げながら、ラッキーに聞いた。
「んーっとね・・・ポンパドール!」
ラッキーは伝票を見ながら、サムにそう言った。
「ポンパドール?・・・マジで?!ジュリアがいる病院があるじゃん!」
サムはラッキーに言った。
「・・・そうだね」
ラッキーはサムにそう言われるのがわかっていたようで、ダンボールを積み上げながら、呟くように言った。
「なぁ、ラッキー、せっかくなんだからジュリアの顔を見に行こうぜ!ポンパドールなんてなかなか行かない場所だしさ、なっ!」
サムは山積みになったダンボールの裏にいるラッキーに向かって、そう言った。
「・・・・」
山積みのダンボールの裏にいるラッキーは無言だった。
「配達の仕事でポンパドールに行くんだからさ、せっかくポンパドールまで行ってジュリアに会わないのもどうかと思うぜ。「ジュリアと会いなさい」って神様がラッキーにくれたタイミングかもしれないよ」
サムはなかなか返事をしないラッキーにそう言った。
「・・・モノは言いようだなぁ」
そう言いながら、積み上げたダンボールの横からラッキーが顔を出した。
「ラッキー、このままお金だけ送り続けてジュリアに一生会わないつもりかよ?」
サムは真顔でラッキーに言った。
「・・・いつかは会いに行くと思うけどね」
ラッキーは俯きながら言った。
「わかった!俺がジュリアの見舞いに行くから、ラッキーは車に乗ってればいいよ。」
ラッキーのはっきりしない態度に業を煮やしたサムはダンボールを車に積み始めながら、そう言った。
「・・・・」
ラッキーは少し考えてるようだった。
「ジュリアだってラッキーが行けば喜ぶと思うけどなぁ・・・。もしジュリアに嫌がられたら、その時はその時で仕方ないけどさぁ・・・」
サムはラッキーが倉庫から出したダンボールをトラックの荷台に積み上げながら言った。
「・・・・」
ラッキーは腕組みをして、何か考えてるようだった。
(そんなにジュリアに会うのが辛いのか・・・)
考え込むラッキーを見たサムは心の中でそう思った。
サムは考え込むラッキーを余所目にダンボールを次々とトラックに積み続けていた。
サムが最後のダンボールをトラックに積み終えた時にラッキーが口を開いた。
「サム、やっぱりジュリアのところに行こうか」
ラッキーはサムにそう言った。
「えっ!?無理するなよ?」
サムは驚いた顔でラッキーに言った。
「いや、ジュリアの怪我の経過も気になるし、もう1年にもなるしさ。サムの言う通り、神様がくれたタイミングかもしれない。」
ラッキーは言った。
「そうか!ラッキーもそう言うなら行こう!行こうよ、ジュリアのところに!」
サムは喜んでラッキーに言った。
「でもその前に仕事だ。行こうぜ、サム!」
ラッキーはそう言いながら、トラックの運転席に滑り込むように乗り込んだ。
「OK!!」
サムもそう言って、助手席に乗り込んだ。
ラッキーがキーを回して、トラックのエンジンをかけた。
「ブロン・・ブロロロ・・・」
鈍い音をたてて、トラックはポンパドールまで出発した・・・。
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