第15話
HARD BOILED SWING CLUB 第15話
その日、ラッキーはREBELERSのイベント「HARLEM SHUFFLE」の打ち合わせを兼ねて、HARD BOILED SWING CLUBで飲んでいた。
ラッキーはワークスタイルのデニムパンツにシャドウチェックのシャツ、エンジニアブーツでいつもよりラフなスタイルで大好きなウォッカ「この世の果て」を飲みながら、カウンターに座っている。
店内にはマスターのキングのみしかおらず、フォートップスやシュープリームスなどの古いモータウンが流れ、ラッキーはそのリズムに身を委ねながらカウンターの中にいるキングに話しかけた。
「そういえば気になってたんですけど・・あのピエロの人と女の子はどうしたんですか?」
ラッキーは先日のピエロのジャッキーとルルの事が気になっていた。
「あぁ、あの日の夜に出て行ったよ。もうこの街は出て行ったと思うけど。あの時は迷惑かけたな」
キングは煙草を咥えてオイルライターで火を点けながら、ラッキーに言った。
「よかった!じゃあ、あれからホワイトも来てないんですか?」
ラッキーは安堵したように言った。
「ああ。ホワイトは保険金もぎ取ろうとして、必死なんじゃねーか?」
キングは煙草の煙を吐き出しながら、そう言った。
「ホワイトはMIDNIGHTSだったんですね・・・驚きました」
ラッキーは67ストリートに住みついた頃、このHARD BOILED SWING CLUBでキングと出会い、キングがリーダーだった「MIDNIGHTS」に憧れて、「REBELERS」を結成した。
MIDNIGHTSはキングをリーダーに総勢30人弱のチームだった。
チームマークはスカル(骸骨)で、そのデザインがラッキーには古臭く、そして不良っぽく見えた。
MIDNIGHTSはほとんどのメンバーがポマードで撫でつけたリーゼントスタイルでラッキーはキングやメンバーが時々、コームを入れて整えるギラギラとしたダックテイルにいつも魅了されていた。
MIDNIGHTSのメンバーは1950年代のいわゆるフィフティーズやロカビリースタイルファッションを好んでいて、レーヨンシャツ、ビンテージのライダース、太めのデニムをロールアップしていて足元はビンテージのエンジニアブーツかラバーソウルというスタイルであった。
ラッキーがHARD BOILED SWING CLUBに通い始めた頃はMIDNIGHTSは全盛を過ぎていて、メンバーも半分に減り始めていたが、店の入り口にはメンバーの単車が並んでいて、店内に入るとバディホリーやロイオービソン、エディコクラン、ジーンヴィンセント・・・などの古いロックンロールが流れていた。
HARD BOILED SWING CLUBに頻繁に通っていたラッキーはその時のMIDNIGHTSのメンバー達を憶えているのだがホワイトは記憶になかったので、ホワイトがMIDNIGHTSに在籍していたということがラッキーには意外だった。
「そうだよな・・・ホワイトがMIDNIGHTSにいた頃はラッキーがこの店に来る前の話だから」
キングはラッキーに言った。
「そうなんですね・・・MIDNIGHTSが解散したのはホワイトとキングが話していたような理由なんですか?・・・だとしたら、何でMIDNIGHTSのメンバーはホワイトなんかに惑わされちゃったんですかね?」
ラッキーは眉をしかめながら言った。
「最初はな・・・ホワイトは一番年齢が下で、俺達は可愛がってたよ。あいつも礼儀正しく、愛嬌もあってとても良い奴だった。だからメンバー全員に好かれてたしな」
キングは思い出すように言った。
「えっ?ホワイトはメンバーに好かれてたんですか?・・・あんな男なのに?」
ラッキーはキングの言葉に驚いた。
「まあな。・・・ただある事件があってな」
キングは口を噤んだ。
「ある事件ですか?」
ラッキーはキングに聞いた。
「ああ。・・・ホワイトの彼女のアンジーが自殺したんだ。」
キングは溜息混じりに言った。
「自殺!?」
ラッキーは驚いてキングに聞き返した。
「・・・自殺の理由は俺にもわからん。ホワイトも言わなかったし、メンバーもホワイトの心中を察して誰も理由を聞かなかった」
キングはラッキーに言った。
「・・・それからホワイトは変わってしまった。店にも顔を出さなくなり、悪い噂ばかりが入ってくるようになった。俺もホワイトが自暴自棄になってるんだろうと思って、放っておいたのが悪かったんだ」
キングは煙草をブーメラン型のアルミ灰皿で揉み消しながら言った。
「そうだったんですね・・・」
ラッキーはそう言って、ホワイトの心境を考えようとしていた。
「それからホワイトは金と犯罪に手を染めるようになったと思う。多分、彼女の死に関係があるんじゃないかとは思っているんだが・・・どうせホワイトに理由を聞いても話さないよ。あいつは詮索と同情が一番嫌いだからな」
キングは言った。
「じゃあ、もしかしてMIDNIGHTSのメンバーはその事件を知って、ホワイトが持ってくる仕事をあえて手伝っていたかもしれないですね・・・」
ラッキーはキングに聞いた。
「そうかもな。メンバーはホワイトに同情して、ホワイトの仕事を手伝ったのかもな。・・・俺にはわからん」
キングはラッキーに言った。
「MIDNIGHTSのメンバーだったらありえますよ」
ラッキーはキングにそう言った。
「いや。MIDNIGHTSを美化するな、ラッキー」
キングは眉間に皺を寄せ、新しい煙草に火を点けながら言った。
「美化・・ですか?」
ラッキーはキングに聞いた。
「そうだ。メンバーだって最初はホワイトに同情からだったかもしれないが、俺が知ってる限りではメンバーも悪の世界にドップリ浸かってたと思う。・・・ホワイトの言う「欲望の世界」にな。」
キングは胸一杯に吸い込んだ煙草の煙を吐き出しながら、言った。
「そうなんですかねぇ・・・」
ラッキーは呟くように言った。
「ラッキー・・・人間ってのは弱い生き物だ。MIDNIGHTSも徒党を組んでるって時点で1人じゃいられない弱い連中の集まりだったんだんだよ。見かけはタフでワルでも精神的に弱い人間達だからな。・・・強烈なパワーがある人間に惹かれていくんだよ。たとえそれが「悪」であってもな」
キングはラッキーに言った。
「そんなもんですかねぇ・・・。でもキングはその時、何でホワイトやMIDNIGHTSのメンバーと話をしなかったんですか?キングはMIDNIGHTSのリーダーじゃないですか?」
ラッキーはキングに言った。
「俺は人に干渉しない主義だし、MIDNIGHTSは個人主義で自由なチームだ。・・・しかも俺は元々、リーダーの器じゃない。一匹狼でやってきたからな。」
キングは話を続けた。
「どんな理由にせよMIDNIGHTSからメンバーが離れていくのを黙って見てるしかなかった。皆がいつか戻ってくるんじゃないかとは思ってはいたけどな。だけど・・・結局はホワイトの言っている通りだった。」
キングは溜息のように煙草の煙を吐き出しながら言った。
「ホワイトの言ってる通り・・・?」
ラッキーはキングに聞き直した。
「「正義」や「理論」より「欲望」や「悪」の方が甘美でパワーが強いってことだよ。」
キングはそう言った。
「・・・・」
ラッキーは閉口した。
「ラッキー、お前は俺みたいになるなよ。REBELERSのメンバーはそんなことにはならないと思うがな。」
キングは話題を変えようと笑いながら言った。
「俺等はそんなことにはならないです。皆、筋が通ってる連中ですから」
ラッキーはキングにそう言った。
「そうだな。」
キングは笑いながら、ラッキーに言った。
「あ、ハーレムシャッフルの打ち合わせしてないですね?」
ラッキーは空になった「この世の果て」のグラスをカウンターに置きながら言った。
キングは笑みを浮かべ、ラッキーの空になったグラスに「この世の果て」を溢れるくらいに注いだ。
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