第9話

HARD BOILED SWING CLUB 第9話




「ホワイト・・・お前は間違ってる」



キングは呟くように言った。



「お前のせいでMIDNIGHTSのメンバーはパクられたり、病院行きになっちまった。それがお前の「正義」か?どちらが正しいのかは結果、一目瞭然だろ」



キングは力強い目でホワイトを睨み返した。



ホワイトは唇に笑みを浮かべて笑いはじめた。



「・・・キング、それはあなたの仲間達が「弱すぎた」んです。暴力や快楽、金の欲望の体積が大きすぎて、それに怯え、それに溺れ、それを処理しきれず自分を見失ってしまったんですよ」



ホワイトは淡々とそう言った。



「みんなはお前とは違う。お前のように根っからの悪人じゃないからな!」



キングは吐き捨てるようにホワイトにそう言った。



「まぁ、弱い生き物は自然界であれ、人間界であれ死ぬしかないですからねぇ・・・弱いものは強いものに食われるしかないですから。」



ホワイトは楽しそうな表情でそう言った。



「・・・もういいだろ。さっさと帰れ!」



キングはホワイトの言葉を遮るように怒りの混じったような声でそう言った。



「・・・・いえいえ、今からが本番ですよ」



ホワイトは冷たい笑みでキングを見つめた。



ホワイトとキングの会話が途切れ、店内には緊迫した空気が流れた。



すると突然!



HARD BOILED SWING CLUBのドアが「バタン!」と開いた音がした。



「バタ・・バタ・・バタ・・」とらせん階段を早足で降りてくる靴音が聞こえた。



ラッキーが階段の上を見上げると、黒いダークスーツの男が2人降りてきているのが見えた。



(・・・ホワイトの仲間か?)



ラッキーは自分の近くに武器になるものはないかと見回した。



店内の角に何かの部品と思われる鉄パイプが無造作に置いてある。



(あれを使うか・・・)



ラッキーはいつでも鉄パイプを取れるように身構えていた。



「バタ・・バタ・・バタン!」



ダークスーツの男2人が店に入ってきた。



2人ともホワイト同様、67ストリートには似つかわしくない雰囲気だった。



そのうちの1人がキングやラッキー、サムに目もくれずにホワイトに駆け寄った。



「ボス・・・」



男はホワイトの耳元で囁くように何かを言っている。



ラッキーは耳を澄ましたが、「ボス」までしか聞き取れなかった。



「ワハハハ!」



男から何かを聞いたホワイトは高笑いをした。



「そうか。ご苦労だったな。あとは午前中に指示した通りにやれ。わかったな?」



ホワイトは男に言った。



「はい、ボス」



男はホワイトにそう言って、すぐにもう1人の男と「バタ・・バタ・・」とらせん階段を登って帰っていった。



「急用が入ったので私は帰ります」



男から「何か」を聞いたのか、上機嫌になったホワイトはキングにそう言った。



「ああ、さっさと帰れ!」



キングは追い出すようにホワイトに言った。



「キング、命拾いしましたねぇ・・・」



ホワイトは満面の笑顔でキングに言った。



「何がだ?」



キングは不機嫌そうにホワイトに言った。



「私はね、あのサーカスに出資した金さえ戻ってくればピエロの男にも、あの少女にも興味がないんです。あの2人を消したって金は戻ってきませんから。」



ホワイトは18金の櫛をスーツの胸ポケットから取り出し、髪を撫で付けながらキングにそう言った。



「だから、何だ?」



キングは苛々した口調でそう言った。



「明日、明後日の新聞でも楽しみにしていてください」



ホワイトはうすら笑いを浮かべて、らせん階段の方に歩きながらキングに言った。



らせん階段の手摺りに手をかけながら、ホワイトは足を止めた。



「屏風の裏の2人にも伝えておいてください」



ホワイトはそう言って、らせん階段をゆっくりと登って帰っていった・・・。





「・・・お前達、悪かったな」



キングはホワイトが帰ったのを見計らって、ラッキーとサムにそう言った。



「何なんですか、あいつは?」



ラッキーはアリゲーターチェアーに座りなおしながら、キングにそう言った。



「酒がまずくなったっすよ、もう!」



サムは床に転がったバタフライナイフを拾いながら、独り言のように言った。



「ああ、悪かったよ、サム。これは俺からサービスだ」



キングはサムに「MY BABE」をもう一杯注ぎなおした。



「ありがとう、キング!」



サムは笑顔でキングにそう言った。



「あの2人・・・どうするんですか?」



ラッキーは屏風の方を見ながらキングに言った。



「ホワイトにはバレてるし、タイミング見てこの街から逃がすしかないだろ」



キングはラッキーにそう言った。



「あいつ、何かあったんですかね?あのダークスーツの男が耳打ちしてから突然、上機嫌でしたよ」



ラッキーはキングに言った。



「ああ・・・」



キングは何か知っているような感じの表情だった。



「新聞、読んだらホワイトがどういう人間かがわかる。ラッキー、お前はホワイトと関わるなよ。サムもな。」



キングはラッキーとサムに強い口調で言った。



「はーい」



サムはおどけた口調でキングに言った。



キングは笑い、ラッキーとサムもキングの笑いに誘われるように笑った。



キングはラッキーとサムのいる間も屏風をそのままにしていて、気がついたように時々フライドポテトやオレンジジュースを屏風の裏にいるジャッキーとルルに運んでいた。



(逃げられればいいな。あの2人)



ラッキーはそんなことを思いながら、「この世の果て」を飲み続けた・・・。



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2日後・・・



ラッキーが布団に包まって寝ていると「ドン!ドン!」とドアを叩く音がした。



「ラッキー!ラッキー!起きろよ!」



サムの声がする。



(・・・あれ?今日の仕事、朝からか?)



ラッキーはモゾモゾとベッドから転がるように起きて、ドアを開けた。



「今日、朝から?」



ラッキーは頭を掻きながら、サムに言った。



「これ、見ろよ、ラッキー」



サムは怯えたような顔でラッキーに新聞を見せた。



「ん~?」



ラッキーは寝ぼけた感じでサムの広げた新聞の面を見た。



「どこ?」



ラッキーはサムに言った。



「ここ、読んでみろよ」



サムは新聞の下の方にある小さな記事を指差した。



「「サーカス 「THE SOFT PARADE」団長 事故死」


昨日未明 67ストリートの路上で倒れている男性がいるのが発見された。


調べによると男性は車ではねらた後、引きずられて放置され死亡した模様。


警察は昨日未明、出頭してきたエドガー・ロイド(25)を過失致死傷と道路交通法違反で逮捕した。


死亡した男性はサーカス 「THE SOFT PARADE」団長 ゴア・ボンゾ 氏(53)。


鑑識によるとボンゾ氏は過度の泥酔状態だったようで、サーカス 「THE SOFT PARADE」も先日、トラブルにより上演を延期していた。」


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