第8話

HARD BOILED SWING CLUB 第8話




「カツ・・・コツ・・・」



ホワイトは屏風の手前まで歩いて、足を止めて屏風をジッと見つめていた。



屏風の裏にはジャッキーとルルが隠れている。



キングは睨みつけるようにホワイトの動きを見ていた。



ラッキーとサムは飲んでいるフリをしながら、ホワイトに殴りかかるタイミングを待っている。



すると突然、ホワイトがこちらを振り向いた。



「もし、この裏にあのピエロと少女がいたとしたら、面白いですねぇ・・・」



ホワイトは不敵な笑みを浮かべながら、そう言った。



「いるはずないだろ」



キングは落ち着いた口調でホワイトにそう言った。



「・・・まぁ、少し話をしましょうか」



ホワイトは氷のような瞳でキングにそう言った。



「あ、その前に・・・そこの黒いの、ナイフを床に落とせ。横の奴は椅子に座れ。」



ホワイトはラッキーとサムに向かって、そう言った。



「!?」



ラッキーは驚いた表情でキングを見た。



「2人とも言う通りにしろ」



キングはラッキーとサムに言った。



ラッキーは溜息をつきながら、クロコダイルチェアーに座りなおした。



サムも舌打ちをして、不満気に背中に隠したバタフライナイフを床に投げた。



「こういう若者を見ていると昔を思い出しますねぇ・・・キング」



ホワイトはニヤニヤしながら、そう言った。



「MIDNIGHTSはもう昔の話だ。」



キングはホワイトから視線を離さず、そう言った。



「さっき、MIDNIGHTSの「あの事件」の話が出ましたでしょう?あれ、話しましょうか?」



ホワイトはスーツの襟を正しながら、キングにそう言った。



「・・・・」



キングは何も言わずに黙っていた。



ホワイトは顔を上げ、遠くを見るような目で語りだした。



「・・・私はMIDNIGHTSを67ストリートで№1のチームにしたかったんです。子供の頃から誰とも馴染めなかった私はMIDNIGHTSこそが自分の居場所だと思ってました」



ホワイトは淡々と言った。



「・・・・」



キングは腕組みをして黙ったままだ。



「だから、私は愛するMIDNIGHTSの皆さんに「やり方」を教えただけです。」



ホワイトは冷酷な笑みを浮かべて、そう言った。



すると、キングが怒りを顕わにしてホワイトに言った。



「「やり方」だと!ふざけるな!MIDNIGHTSは礼節を重んじ筋を通すチームだった。・・・お前が来てからMIDNIGHTSが変わりはじめて、最後には破滅のような終わり方をしたんだ。」



キングが話を続けた。



「窃盗、クスリ、詐欺、嘘、裏切り・・・そんなことをする連中じゃなかった。お前だろ、ホワイト。皆を唆したのは?」



キングはホワイトを睨みつけながら言った。



「唆す?とは失礼ですねぇ。皆さんが「そうしたい」というから、「お仕事」を紹介しただけですよ」



ホワイトはムッとした表情で言った。



「今まで一枚岩となっていたMIDNIGHTSの半分以上が窃盗や傷害、詐欺で捕まり、残った連中はクスリ漬けで廃人同様。



俺は絶対にお前が裏で何か動いてると思ってた。



お前、皆に「これを盗んだら金をやる・・・こいつを刺したら金をやる・・・この身代わりになって出頭したら金をやる・・・このクスリを売ったら金をやる」って金をちらつかせて皆を騙したんだろうが!」



キングは怒りに任せて、怒鳴るようにホワイトに言った。



「だからぁ・・・」



ホワイトはキングを馬鹿にしたような口調で言った。



「キングは誤解してらっしゃる。皆さんは私に「騙された」のではなく、自ら「そうしたかった」のです。・・・ボブさんを憶えてますか?」



ホワイトは「ボブ」という男の名前を口にした。



「ああ。俺の大事な仲間だったよ。今はどこにいるかもわからねぇけどな」



キングはぶっきら棒にそう言った。



「・・・ある事件がありましてね。男に娘が暴行されて殺されてしまった老夫婦がいたのです。



私はその老夫婦から「娘の仇を討ってくれ。金はいくらでも出す」と嘆願されておりました。



それをボブさんに話したら、その老夫婦に同情したボブさんが「自分がやる」と言って「仇」を実行してくれたわけです。・・・私はボブさんを唆したのでしょうかね?」



ホワイトはキングにそう言った。



「お前がボブの性格を知っての上で、その正義感を利用したんだろ!」



キングは怒鳴るように言った。



「キング・・・全てMIDNIGHTSのリーダーのあなたが悪いんですよ。その辺、あなたは理解されてなかったんじゃないですか?」



ホワイトはそう言いながら、わざと哀れむような表情を作ってキングに言った。



「・・・・俺の何が悪い?」



キングは憮然とした表情でホワイトに言った。



「・・・MIDNIGHTSの皆さんはあなたの言う「礼節を重んじ筋を通す」のに疲れてたのです。あなたの「正義」は理屈と常識で疲れるんですよ。



「正義」では全然、お腹がいっぱいにならないのです。



「正義」では心も満たされない。



「正義」のカタルシスでは酔えないのです。



「正義」では生活ができない。



・・・皆さんは小さな仕事の微々たる収入で生活が苦しかった。



借金に苦しんでる人も多かったのを、リーダーのあなたは知ってましたか?



私は皆さんは生活の為にも「お金」を与えたかったのです。そしてその為に「お仕事」を与えただけです。


しかも、あなたやMIDNIGHTSのメンバーの大好きな「正義」の「お仕事」を探して与えたわけです。



私はあなたに感謝してもらいたいくらいですよ。」



ホワイトは挑むような目でキングを見た。


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