第6話

HARD BOILED SWING CLUB 第6話




「いやー、今日の粗大ゴミ回収は疲れたな・・」



1日の仕事を終えたラッキーは煙草に火を点けながら、一緒に仕事をしたサムに言った。



「キングのところでも行こうか?」



サムは右手で「飲む」仕草をした。



「いいねー、行こうか!」



ラッキーはサムに笑顔でそう言った。



・・・そして2人は「HARD BOILED SWING CLUB」に歩いた。



2人の「カツ・・・カツ・・・」というエンジニアブーツで歩く音が夜の歩道に鳴り響き、ラッキーのブラス製のスペードマークのウォレットチェーンが「チャリ・・チャリ・・」と音を立てている。



「今月、金が足らんなぁ・・」



67ストリートの入り口まで来たラッキーは「67 ST」の古くなって錆びついたウッドプレートを見上げながら、ラッキーは独り言のようにサムに言った。




「ん?」



サムは歩きながら、横にいるラッキーの顔を見ながら言った。



「あ、・・・ゴメン」



ラッキーは口を噤んだ。



「ああ、わかった・・・まだジュリアに金、送ってるのかよ?」



サムはあきれた顔をして、ラッキーに言った。



「・・・まあね」



ラッキーは煙草の煙を吐き出しながらサムに言った。



「もう何年、苦しんでるんだよ?・・・ジュリアの件はお前のせいじゃないさ」



サムはラッキーにそう言った。



「・・・いや、俺の責任だ。」



ラッキーはそう言った。



「だってさ、確かにお前の代わりにジュリアは仕事に行って事故にあった。だけど、それは運命というか・・仕方がないことじゃないか?」



サムはラッキーにそう言った。



「俺がジュリアに仕事を頼まなければ、こんなことにはならなかったんだ」



ラッキーはそう言った。



「悪いタイミングだったんだよ・・・ラッキー、あまり自分を責めるなよ」



サムはラッキーの肩を叩きながら言った。



「サンキュー、サム。・・・だけど、俺は俺のやり方でジュリアに責任取りたいんだ」



ラッキーはサムにそう言った。



「・・・っていうか事故後、一度もジュリアに会ってないんだろ?」



サムは言った。



「・・・うん」



ラッキーは肩を竦めて、そう言った。



「何故、会いに行かない?」



サムは強い口調でラッキーにそう言った。



「前に行ったら拒絶されてしまったんだよ。ジュリアは足が動かなくて、もう一生車椅子の生活なんだ。俺がどの面(ツラ)下げて、会いにいけると思う?俺を憎んでるに決まってるじゃないか!」



ラッキーも強い口調でそう言った。



「そう・・・でもお金だけ振り込まれて、ジュリアは嬉しいのかねぇ?」



サムは頑ななラッキーに溜息をつきながら言った。



「治療費は高額だって聞いてる。ジュリアだって俺を憎んでると思うけど、金は何かの助けにはなっていると思うんだ」



ラッキーは着けていたセルロイド素材のウェリントンタイプのサングラスを人差し指で上げながら、そう言った。



「金が「誠意」ってわけか・・相変わらずの「自己中」だな。あのねぇ、ジュリアも女だよ」



サムはラッキーにそう言った。



「・・・そうだよ。俺のせいで結婚もできない身体になってしまった」



ラッキーは呟くようにそう言った。



「・・・女心がわかっちゃいないねぇー、ラッキー君は」



サムはおどけた顔でユーモアたっぷりにそう言った。



「何でそこで「女心」が出てくるんだよ?」



ラッキーは意味が分からず、サムにそう言った。



「本気で分からないの!?・・・じゃあ、もういいよ。」



サムは「お手上げ」のポーズをしながら、そう言った。



「何だよ、それ・・・・」



その言葉を聞いて、ラッキーは納得がいかない様子だった。



ラッキーがサムと話を続けようと思った時、2人は「HARD BOILED SWING CLUB」のドアの前に着いた。



「まぁ、その話は今度。今日は飲もうぜ」



サムは陽気にそう言った。



「了解!」



ラッキーもそう返事をした。



「HARD BOILED SWING CLUB」のドアを開けると、ハウリンウルフのブルースが大音量で流れていた。



「イエー、いいね!」



サムはカウンターにいたキングに指で「GOOD」サインを送った。



「おっ、いらっしゃい。」



キングも「GOOD」サインでサムに応えた。



「お疲れ様です!」



ラッキーがキングに挨拶をした。



「おっ、ラッキー。ここんとこ毎日じゃないか?」



キングは笑顔でラッキーに言った。



ラッキーは思わず、照れ笑いをした。



・・・ラッキーがカウンターのチェアーに座る前にふと、店の一番奥のテーブルに目をやると1人の男と1人の少女が座っていた。



男が暖かいポタージュをスプーンですくって、「フゥ、フゥ・・」と息を吹きかけ、冷ましながらゆっくりと少女に飲ませている。



少女は微動だにせず、その男にされるままにポタージュを口に入れ、ゆっくりと胃に流し込んでる。



その少女の姿は人形のようで、無表情だった。



よく見ると・・・男も少女も服が所々破れ、血がシャツに滲んでいて怪我をしてる。



男は頭からも血を流していて、頬までその血が流れ落ちてる。



ラッキーから見たその光景は一種、異様な雰囲気でもあった。



(あれ?・・・あの人って)



ラッキーはその男の顔に見覚えがあった。



(あ、あのサーカスの人じゃん!)



・・・一番奥の席には「THE SOFT PARADE」から命からがら逃げてきたジャッキーとルルが座っていた。

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