第10話

 白い肌、青い髪、対比して輝く薔薇色の唇。月は隠れ宝石もただの石ころに成り下がる白皙の美貌。椿己みかんその人に。


 いそいで扉を閉めると、背を扉に預け中に入れないようにと塞ぐ。扉の向こうで誰かが掛けていく足音が通り過ぎると、ほっとしたようにその紅唇から息を吐く。

 そうして自分を見つめるひまりたちに気付き、よっと片手をあげた。


「よお、どうだひまり。学園は」

「楽しい、です」

「そうか、そりゃあよかったな」


 にこにこと笑みながら近づいて、椅子に座っているひまりの頭を撫でる。


 足音がしないのが不思議だったが、きっと術で体重を消しているんだろうなとひまり以外のみんなは思った。


 当然のように伸びてくる白い手を甘受して、気持ちよさそうに目を閉じるひまりに面白くなかったのはひざしだ。話題を変える。


「陛下、追われてるの?」

「あなた逃げてる、です?」

「ああ、捕まったら恐ろしい目にあわされる」


 恐ろしいと大げさに身を震わせるみかんに、それをまっすぐ受け止めたひまりが心配そうな顔をする。こんなことが過去に何回かあったことを知っているひまり以外のみんなはまたかと言わんばかりの冷めた視線を送っていたが。


「自業自得でしょ」

「今回はなにやったんだっちゃ?」

「また女子更衣室のぞいたんじゃねえの」

「当然なんだよ」

「お前ら何でそんなに塩対応なの!? のぞきも何もあたし女子だから!」

「・・・あなた隠れる、です!」


 そういって、ひまりは自分の来ている白いワンピースの裾をわずかに持ち上げて見せる。ワンピースの中に隠れろと言うことなのだろう。それをきょとんと見る全員。


 そして、意味を理解した瞬間。

 みかんを見る目が一気に氷点下までひき下がった。


「陛下・・・あんた」

「こんなガキに」

「最低なんだよ」

「へ、変態だっちゃ!」

「ち・・・違っ! あたしのせいじゃねえだろぉぉぉぉ!?」


 みかんの絶叫とともに風紀委員が乗り込んできたのはほぼ同時だった。


 ひまりの学園初日はそうして暮れていったことだけはここに記しておきたい。


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