第9話
「ひまり、消せ。ケーキが溶ける」
「はい、です」
ふう・・・ふうと2回かけてすべてのロウソクを消し終わると、千葵と南調が拍手をはじめ、それにつられるようにひざしと戯沙も拍手する。
ぱちぱちと4重奏の拍手がローリエの店内に響き渡る。
「ひまり、ようこそ双璧組へ! 歓迎するっちゃ!」
「あ、ありがとう、です」
「おめでとう」
「おめでとうなんだよ」
「おめでとう」
にかっと笑って、千葵は歓迎の意を示した。きょとんとそれを受けたが、だんだんわかってきたのか目を潤ませながらあわててお礼を言うひまり。拍手をしながら3人は千葵に続いて歓迎の言葉を贈った。
「千葵、あんたただの馬鹿じゃなかったのね」
「いや、馬鹿は確定だっちゃ!?」
「あんたは時々気遣いのできる馬鹿よ!」
「時々!?」
ロウソクの吹き消えたホールケーキを腹に収めゆっくりとコーラを満足げに飲む千葵に、戯沙は感心したかのように褒めた。内容は微妙であったが。ショックを受けている千葵をスルーして戯沙はローズヒップティーのはいったティーカップに口をつける。
「きれい、です」
「ね、綺麗でしょ」
「はい、です」
工芸茶。ガラスのティーポッドの中で開く花をうっとりと見つめながら呟くひまりに、ひざしが頷く。ティーポッドの中でほわりとほどけるように花開いた花弁は可憐で、見るものの目を楽しませ癒していた。
そんなゆったりした店内に、いきなり出入り口の扉が開かれる。ガランガランと乱暴に開かれたドアベルが悲鳴を上げるが、そんなことは気にならず、誰もが入ってきた彼女に目を丸くした。
白い肌、青い髪、対比して輝く薔薇色の唇。月は隠れ宝石もただの石ころに成り下がる白皙の美貌。椿己みかん、その人に。
みかんはいそいで扉を閉めると、背を扉に預け中に入れないようにと塞ぐ。扉の向こうで誰かが掛けていく足音が通り過ぎると、ほっとしたようにその紅唇から息を吐く。
そうして自分を見つめるひまりたちに気付き、よっと片手をあげた。
「よお、どうだひまり。学園は」
「楽しい、です」
「そうか、そりゃあよかったな」
にこにこと笑みながら近づいて、椅子に座っているひまりの頭を撫でる。
足音がしないのが不思議だったが、きっと術で体重を消しているんだろうなとひまり以外のみんなは思った。
当然のように伸びてくる白い手を甘受して、気持ちよさそうに目を閉じるひまりに面白くなかったのはひざしだ。話題を変える。
「陛下、追われてるの?」
「あなた逃げてる、です?」
「ああ、捕まったら恐ろしい目にあわされる」
恐ろしいと大げさに身を震わせるみかんに、それをまっすぐ受け止めたひまりが心配そうな顔をする。こんなことが過去に何回かあったことを知っているひまり以外のみんなはまたかと言わんばかりの冷めた視線を送っていたが。
「自業自得でしょ」
「今回はなにやったんだっちゃ?」
「また女子更衣室のぞいたんじゃねえの」
「当然なんだよ」
「お前ら何でそんなに塩対応なの!? のぞきも何もあたし女子だから!」
「・・・あなた隠れる、です!」
そういって、ひまりは自分の来ている白いワンピースの裾をわずかに持ち上げて見せる。ワンピースの中に隠れろと言うことなのだろう。それをきょとんと見る全員。
そして、意味を理解した瞬間。
みかんを見る目が一気に氷点下までひき下がった。
「陛下・・・あんた」
「こんなガキに」
「最低なんだよ」
「へ、変態だっちゃ!」
「ち・・・違っ! あたしのせいじゃねえだろぉぉぉぉ!?」
みかんの絶叫とともに風紀委員が乗り込んできたのはほぼ同時だった。
ひまりの学園初日はそうして暮れていったことだけはここに記しておきたい。
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