第3話

 歳はきっと15、6。

 白くすきぬける肌に、長いまつ毛が影を落とす瞳は晴れた空を映しだす湖面の色。嘘のように小さな顔は申し分なく整った造形だった。緩くうねった豊かな白銀の髪は腰までのツインテールにされていて、人形めいた可憐さを醸し出していた。

 どこか不思議な透明感のある、美しさを持つ白と黒、モノトーンのワンピースに身を包んだ少女。


 その人が、開いた扉の向こう側に立っていた。


 ひまりが、人がいるとは思っていなかったのか、もしくはひまりの幼さに驚いたのかは定かではないが、大きく湖面にも似た瞳が開かれるのをきれいだと思いながらひまりは見ていた。ただ、ぼんやりと。

 その白い手が、ゆっくりとひまりにむかって伸ばされたときも、何の抵抗もなく受け入れていた。


 これは一か月間、ひまりのお世話をしてくれた先生やみかんの影響が大きい。先生やみかんはなにか褒めることがあるとすぐに頭を撫でたり抱きしめてきたからだ。何回もやられているうちに慣れてきて、いまでは最初びくびくしていたのが嘘のようにあっさり受け入れられるようになっていた。


 ぽん、と温かい手がひまりの頭に触れる。さらりと撫でた手は優しかった。


「君が、ひまり?」

「あたし琴羽ひまり、です」

「そう。僕、ひざし。依知川いちかわひざし、君のライバルなんだよ。よろしくね」

「よろしく、です」


 ほわりと撫でながら、撫でられながら2人で笑いあったところで、ひざしの後ろからひょっこりと違う顔が飛び出してきた。


 ひざしと同じ年頃で、どこかつりあがって勝気に見える紫色の瞳と、右上から左下までばっさりと斜めに切られた前髪が特徴的な少女だった。廊下の窓から差し込む人工太陽の光に鈍く輝き返すかのように肩までしかない白い髪がわずかに照る。つんと尖った顎と、首までチャックのあげられた白いジャージに吸い込まれる首は細かった。


 きょとんと頭を撫でているひざしと撫でられているひまりを交互に見る。


「あれ?幼等部の子がなんでここにいるの?棟違うよね」

「違う。僕のライバルだよ、戯沙きさ

「は? この子が?」

「うん、ひまり」

「あたし琴羽ひまり、です。よろしく、です」


 まじかと目をむく少女・戯沙に、ぺこりとひまりが頭を下げる。なかなか礼儀正しい態度に、戯沙は不信感いっぱいの雰囲気をやわらげてひまりの頭へと手を伸ばす。自然に触れてこようとする戯沙に、ひまりが頭を差し出そうとする前に。


「・・・何よ」

「なにが?」

「この手よ、手!」

「僕のライバルだから」

「頭撫でるくらいいいじゃない!」


 嫉妬深いわね!と戯沙はひざしに掴まれた手を軽く振り払った。肩をすくめてやれやれと言わんばかりに頭を振ると、そんな二人のやり取りをぼんやりと見ていたひまりに満面の笑みで声をかけた。


「はじめまして。あたし、流戯沙ながれきさ。気軽に戯沙って呼んでくれていいわ。ようこそ双璧組へ。歓迎するわよ、よろしくね、ひまり」

「名前で呼んでいいって言ってないよ」

「だからなんであんたが反応すんのよ」

「ライバルだから」

「あのねえ。・・・あーもう。めんどくさいのはあの2人だけにしてよね!」


 戯沙がひまりの名前を呼んだことに反応するひざしと、それにかみつく戯沙。疲れたように頭を抱える戯沙にさらに追撃をかますひざしが騒いでいるのを仲良しだなあと若干ほんわりしながら見ているひまり。ここにツッコミ役なんて存在しなかった。


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