第4話

 彼女と出会ってからまだ2時間くらいかな。その間にボクは何度も過去の出来事を振り返っていた。

 偶然なのか、彼女の記憶の場所は、ボクの思い入れが深い場所でもあった。

 大学受験の事。

 そして、さっきまでいた海。二十歳の頃に付き合っていた彼女がとても海が好きで、よくバイクに乗せていった。

 3年付き合って、少し将来の事とか考え始めた時、突然別れようと言われた。よせばいいのにボクは理由を尋ねた。

 

 あなたはとてもいい人。だけど、このまま一緒にいてもこれ以上の関係には発展しないわ。

 私が理想とする男としての魅力が、あなたには無い。


 自分でも自覚があったけど、言葉で聞くとショックも大きかった。

 今だに引きずっている。

 何度かいいなぁって思う女性に巡り会ったけど、友達以上にならなかったのは、ボクが避けているからだった。


 で、次に来たのがココ。ボクが卒業した小学校。

 これは自分の歴史を振り返り、何か悟りでも開け、という旅なのだろうか。


 ボクはカバンの紐を持つ彼女の手に触れた。

 トンネルはありそう?

 「まだ判りません。中を見れませんか?」


 職員室の明かりが点いている。先生はこんな時間でも学校にいるのか。大変なんだな。


 入口の門は開いているし、見つからないように行けば問題ないか。

 ボクはスクーターを駐車場の隅っこに停め、校内へ向かった。

 何となく、ここが終着点な気がして、彼女の事を聞いてみようと思った。

 君のいる世界では、みんな心の声が聞けるの?

 「いいえ、全員ではありません。私たちの世界では、生まれてすぐに適正検査を行なって、将来なるべき職種を決めるんです」

 じゃあ、君の能力を使う職業って何なの?

 「魔法使いです」

 真剣な顔で言われると案外ウソっぽくない。

 「本当です!」

 魔法使いってさ、ほうきに乗って空を飛んだり、人間を動物に変えたりする魔法使い、だよね?

 「ひと言に魔法使いといっても、仕事の内容によって、細かく分けられています。確かに空を飛べる方もいます」

 ・・・いるんだ。

  「私は色々な星から草花を集め、薬を生成する職を目指しています」


 ああ、魔法使いって薬作ったりしてなあ、本や映画で。

 でも、心の声が聞けるのって、何の役に立つの?


 「本来は草花の声を聞いて、どういう治療に効くかを見極めるために使うんです。その課程で心の声を聞く訓練があります」

 私はまだ見習いなので、と付け加えた。

 

 生まれてすぐ将来進む道が決まっている。窮屈に感じるヒトもいるだろうけど、ボクには有難い世界だ。何をすればいいか、何がしたいか、悩まなくていいから。

 「確かにそうですね。でも、私はアナタのような事で悩めるのが少し羨ましいです」

 ボクは彼女の方へ顔を向けた。

 「色々悩んで、落ち込んだり失敗したり、その繰り返しでも、自由に将来を決められるんですから。自分の努力次第で選択肢が変わるのは素敵なことだと思います」

 なんだろう。

 心にズシリと重く感じるものがあった。


 校舎の東側、プールの側の大きな木の辺りで彼女の足がとまった。

 そこは確か『自由の森』という名前の場所で、学校が建てられる前の森の一部が残されている、わりと大きな公園だ。

 自然観察や写生会をしたり、よく授業で使っていた。

 卒業してから何年も来てないけど、変わってない。記憶と比べて小さく感じるのは、単純に体がデカくなったからだろうな。

 懐かしい。

 アイツと仲良くなったのは、この森だったな。

 4年生の春、転校してきたアイツ。

 その頃、何がきっかけだったのか、ボクはイジメにあっていた。最近のイジメほど悪質ではなかったけど、それでも学校に行くのが嫌になるほど困っていた。

 ある日、昼休みに『自由の森』で3,4人くらいからイジメられているところにアイツがやって来た。

 口は達者だったが、ケンカは弱かった。だけど、何回倒されてもアイツはむかっていった。最後は向こうが根負けして退散した。

 その時アイツはボクに言った。


 暴力を振るう奴はキライだ。だけど、何もしないで逃げようとする奴はもっとキライだ


 ボクは大声で泣いた。

 それからすぐにアイツとは親友になった。イジメてた奴らとも、何度かケンカするうちに親友になった。

 それが今の仲間だ。

 

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