第3話
ここから海がある場所までは車で約30分くらいの距離がある。
このまま電車を利用してもいいのだけれど、ローカル線なので都合のいい時間に電車は来ない。
ボクは駅を後にして自宅へ向かった。
歩く以外の移動手段が必要だ。
車の免許は持って無いけど自動二輪は持ってる。幸い、今バイクを持ってる。
90ccのスクーターだけど。
駅から自宅まで歩いて10分くらい。
自宅から会社まで歩いて15分くらい。通勤はほとんど自転車で、今日に限ってタイヤがパンク。修理に出してそのまま徒歩通勤した。
この時間だと自転車屋は閉まっているけど、小学生の頃からの馴染みのおじさんだから、明日の朝の通勤時間には用意してくれているはず。
しばらく道なりに歩く。
通い慣れた道。
10代の頃は気の合う仲間とバイクで一晩中走り回ったなあ。
いつからだろう。
家と会社の往復だけの生活になったのは。
結婚して家庭を持った奴もいれば、転勤になった奴もいる。
仲間と顔を合わせるのが毎日から週末だけになり、月に一度くらいになり・・・
最近会ってないなあ。
みんな元気にしてるかなあ。
しかし、何で今日に限ってこんなセンチな気分なんだ?
「本当の仲間というのは、会わなくても心が繋がっているものですよ」
ウッ(恥)
心の声が丸聞こえだった。
つか、さっきからボクの腕に掴まったままだけど、話をする時以外は離れていてもいいんじゃない?
「すみません。放してしまうとアナタが何処かへ行ってしまうのではないかと思って不安なんです」
じゃあ、せめて会話する時以外はボクのカバンに掴まっていて。それならボクの思ったこと聞こえないし、不安じゃないでしょ?
「・・・判りました」
彼女の腕が離れた。男として女の子にしがみつかれているのは悪い気分じゃないけど、心の中を覗かれたままはちょっと。
彼女はカバンの肩からかけた紐を持った。
異世界の少女。
色々気になること、聞きたいことはあるけど、まずは彼女の帰れる方法を探すことが先決だ。
それからでも遅くない。
彼女を助けられるのはボクだけなのだから。
彼女をどうにか説得して外で待たせ、ボクは簡単な身支度と親へ適当なウソをつき、家を出た。
「これは乗り物なのですか?」
ボクはスクーターの前で、彼女に説明する羽目になった。
常識だと思ってることを知らないヒトに伝えるって、結構難しい。
では、海へ出発。
しばらくは息苦しいくらい背中に抱きついていた彼女も、慣れてきたようで、時々目にする不思議な物の質問をするまで余裕がでてきた。
目にするモノ、耳にするモノ、すべて知らないって、どんな気分なんだろう。
夜の海。
潮風と波の音。
砂浜はシーズン前なので、打ち上げられた海草やゴミが散らばっていた。
ひと通り町の中を走り回ったけど、ここにもトンネルへの道は無かった。
今更だけど、車で30分もかかる距離を歩いてきたのだろうか。
彼女に聞いてみた。
「次元トンネルの中はとても速く進んでいるんです。そこからこの世界に来たのがわずか数秒でも、バイクという乗り物よりはるかに移動時間が速いので、特定が難しいんです」
なるほど。
しかし、そんな大変な事になるかもしれないのに、寝てたなんて・・・
「返す言葉もありません」
ま、後悔しても仕方ない。前に進もう。
他に何か覚えてない?
駅のホーム、波の音、その前か後。目覚める時に見たモノとか。
俯いていた彼女の表情は変わった。
「そういえば、広場のような所を見ました。近くに四角い建物と、大きな木があって、その木の側に柵に囲われた場所があって、水槽のような物がありました」
広場と四角い建物と水槽。
それらが揃ってる場所って何処だ?
「出来るかどうか判りませんが、私の見た映像をアナタに送ってみます」
え? そんなことできるの?
「まだ練習中なので自信はありませんが、試してみます」
練習中なんだ。
そっちの方が気になる。君のいる世界の生活事情。
「目を閉じて、私と触れている部分に意識を集中して下さい」
彼女はボクの腕から離れ、手を握った。
女の子から手を握られて、ちょっとドキッとした。
「集中して下さい」
繰り返し言われた。
彼女も少し恥ずかしそうだった。
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