第2話

 歩きながら、ボクの腕にしがみついている彼女を見る。

 うん、見える。捨てられた子猫ような心細い表情をしている。

 目が合った。

 そうか、触れている人の心の声が聞こえるんだっけ。

 どうもやりにくい・・・

 これまでに判っている事を整理してみよう。


 *彼女は幽霊ではない。別の世界から来た

 

 *今の段階で、ボク以外の人に彼女は見えない。声も聞こえない


 *恐らくドッキリではない


 彼女に腕を引っ張られる。まだ疑っているのか、という意思表示。

 はいはい、スイマセン。


 で、そもそも何でこの世界に迷い込んだのか。

 彼女の話によると、親からお使いを頼まれ、ナンチャラ星からナンチャラ星に移動中に、昨日の夜更かしが原因でうたた寝をしてしまい、ハッと気づけばここにいた、らしい。

 ちなみに、ナンチャラの部分に入る星の名前は日本語に変換できないそうだ。何回か彼女の言語で聞いたが、ボクには発音することすらできなかった。

 そして、星から星の移動方法は、SFっぽくて全部理解できなかったのだけど、次元のトンネルというのを使うらしい。目的地を指定して、そのトンネルに入ると、数分で到着するそうだ。

 但し、トンネル内で爆発だとか、意識が無くなったりすると、ごく稀に違う場所へ飛ばされる事があるらしい。


 その稀に今回当たってしまった。

 彼女は突然の事に気が動転。

 どこをどう歩いてきたのか。とにかく明るい場所、人がいる所を目指してようやくここにたどり着いたが、体が半透明で、人に触れる事も声を出す事もできない自分にさらに動揺した。


 そこでボクに出会った。

 ちょっと出来過ぎな出会いだよな・・・


 彼女が元の世界に帰る方法は?

 今のところ判らないそうだ。可能性として、ボク達の世界に最初に来た場所が、もしかすると次元トンネルと繋がったままかもしれないらしい。そこを目指してみることになった。

 だけど・・・

 「突然の出来事で、頭の中が真っ白で。アナタと会った場所までの記憶が曖昧なんです」


 それでも何か覚えてないのと聞いてみると、

 「箱のような形をした乗り物が目の前で止まって、中から人が大勢出てきました。何となくその人達について行くと、ここにたどり着きました」

 つまり、駅のホームか。

 と、いうわけで今、駅へ向かっていた。小さな街なので近くに駅はひとつしかない。

 大きな都市(まち)へ行くにはこの駅。

 ボクが大学受験の時に利用したのもココ。

 結局、受験は失敗して、家庭の事情から浪人せず就職したけど・・・


 今でもそうだけど、ボクには将来の目標というか、やりたい事が何なのか、はっきりしていない。こんなボクが大学に行っても、きっと何も変わらなかったと思う。

 うん。そうに違いない。


 自動改札はボクひとりの切符で通れた。

 ま、彼女は見えないんだから当然か。少しの安心と罪悪感。

 ホームに立って辺りを見回す。特に変わった様子はない。

 「ここですね。確かに先程ここにいました」

 「トンネルの入口・・・」

 おっと。

 声に出さなくてもいいのか。

 トンネルの入口はあるの?

 「いいえ。何もありません」

彼女が残念そうに言った。

 さて、可能性がひとつ消えた。

 ほかに覚えてることはない?何もない街だけど、建物とか音とか、それなりに特徴はあると思うよ。

 「音、ですか・・・」

 記憶を辿る彼女。

 待つしかない。ボクには何の能力もない。ただ彼女の記憶の場所に連れて行くことしかできない。

 「波の音がしました」

 「波?」

思わず声が出てしまった。

 ベンチに座っているおばさんがこっちを見てる。

 知らないフリ。

 「この場所に来る少し前、多分トンネルとこの世界のはざまにいる時に、波の音を聞きました」

 この辺で波の音がする場所と言えば・・・

  

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