Fade-out
「…………」
体調は万全、素材も揃えた。これ以上ない好条件。
「よし、いける」
全ての素材……ボル様の毛も入れる。
「錬金、開始」
そう言ってコネクトした瞬間、俺は錬金術に落ちた。
*
五感の全てが錬金術に染まっている。上も下も分からない、錬金術以外何もない空間に放り出されたような感じだ。
「…………」
何度もやった、完全に記憶した手順通りに錬金を進めていく。
込める生命力が少しでも違えば失敗となる。ペットボトルの中の水を一滴ずつ落とすような作業である。
抽出、強化、結合、強化、結合、結合……
順調に進んでいき、何度も失敗した段階まで辿り着く。
ここで、ボル様の毛が使われる。
結合、結合、強化、抽出、強化、結合……
終わる寸前、視界が反転する。
「……やば」
己が出した声も聞こえず、さっきまで見えていた錬金術すら見えなくなる。
制御を失った錬金術が暴走し、俺から生命力を奪っていく。
何が違った? 何を間違えた? そんな疑問が頭を掠めたがそれは意味なき事、次は無い、この錬金術の失敗は己の死だ。
しかしここから成功に導くのは不可能な話である。
ただ、一つの犠牲を払えばそれは可能になるかもしれない。
純粋な生命力で無理やり錬金術を抑え込み、そのまま完成に導く。それならば出来るやもしれない。
使う生命力は半端なものではすまない、もちろん、俺は死ぬ。
どちらにせよ死ぬのなら、どちらにせよ終わるのなら、責めてコレを……
「全部、持っていけ____」
*
五感が戻る。どうやら即死では無いらしい。
身体が動かない。生命力はカケラほどしか無いらしい。
その状態になってすぐ、先生が入ってきた。
俺の身体に触れ、何かを言っていたが近くにあったアルスの手帳を見て全て把握したらしい。俺が作った薬品を持って
「このバカ生徒」
と呟いて部屋を出て行った。
*
あれからどれくらい経っただろう。思考はだんだんと弱くなっていき、死がゆっくりと迫ってくるのを感じる。
気を抜けば恐らくソレはすぐさま俺に降りかかるだろう。しかし俺は一つだけの心残りを持ち、耐えていた。
あの錬金術は成功していたのだろうか?
それを確認する暇さえ、俺には与えられなかった。
*
閉められていた扉がまた開く。
智野が走って来て俺に何かを言っている。
涙が落ちて来ているようだが、最早視覚以外の感覚は無くなっていた。
しかし、しかしだ。智野は走ってきた。
車椅子ではなく、自身の足で、拙い動きではなく、走ってきたのだ。
未練は無くなった。もう、頑張る必要もない。
俺は大きく息を吐き、意識の糸を手放す。
これにて、御内隆也の物語は終幕である。「…………」
体調は万全、素材も揃えた。これ以上ない好条件。
「よし、いける」
全ての素材……ボル様の毛も入れる。
「錬金、開始」
そう言ってコネクトした瞬間、俺は錬金術に落ちた。
*
五感の全てが錬金術に染まっている。上も下も分からない、錬金術以外何もない空間に放り出されたような感じだ。
「…………」
何度もやった、完全に記憶した手順通りに錬金を進めていく。
込める生命力が少しでも違えば失敗となる。ペットボトルの中の水を一滴ずつ落とすような作業である。
抽出、強化、結合、強化、結合、結合……
順調に進んでいき、何度も失敗した段階まで辿り着く。
ここで、ボル様の毛が使われる。
結合、結合、強化、抽出、強化、結合……
終わる寸前、視界が反転する。
「……やば」
己が出した声も聞こえず、さっきまで見えていた錬金術すら見えなくなる。
制御を失った錬金術が暴走し、俺から生命力を奪っていく。
何が違った? 何を間違えた? そんな疑問が頭を掠めたがそれは意味なき事、次は無い、この錬金術の失敗は己の死だ。
しかしここから成功に導くのは不可能な話である。
ただ、一つの犠牲を払えばそれは可能になるかもしれない。
純粋な生命力で無理やり錬金術を抑え込み、そのまま完成に導く。それならば出来るやもしれない。
使う生命力は半端なものではすまない、もちろん、俺は死ぬ。
どちらにせよ死ぬのなら、どちらにせよ終わるのなら、責めてコレを……
「全部、持っていけ____」
*
五感が戻る。どうやら即死では無いらしい。
身体が動かない。生命力はカケラほどしか無いらしい。
その状態になってすぐ、先生が入ってきた。
俺の身体に触れ、何かを言っていたが近くにあったアルスの手帳を見て全て把握したらしい。俺が作った薬品を持って
「このバカ生徒」
と呟いて部屋を出て行った。
*
あれからどれくらい経っただろう。思考はだんだんと弱くなっていき、死がゆっくりと迫ってくるのを感じる。
気を抜けば恐らくソレはすぐさま俺に降りかかるだろう。しかし俺は一つだけの心残りを持ち、耐えていた。
あの錬金術は成功していたのだろうか?
それを確認する暇さえ、俺には与えられなかった。
*
閉められていた扉がまた開く。
智野が走って来て俺に何かを言っている。
涙が落ちて来ているようだが、最早視覚以外の感覚は無くなっていた。
しかし、しかしだ。智野は走ってきた。
車椅子ではなく、自身の足で、拙い動きではなく、走ってきたのだ。
未練は無くなった。もう、頑張る必要もない。
俺は大きく息を吐き、意識の糸を手放す。
これにて、御内隆也の物語は終幕である。
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