alchemist
「報告ご苦労……大変だったな」
ボル様への報告も終わり、出ようとすると服を掴まれた。
「お前は残れ」
「……なんでですか」
「自分の身体を錬金したそうじゃないか、不具合が無いか見といてやろう」
「あー」
まだそこ蒸し返されるのかぁ……
*
「……お前、何をしている?」
「そこまで身体に悪い事だと思ってませんでした」
「そうではない、アレは口実に過ぎない」
「…………」
「錬金術の神を相手に隠せると思ったか? なんだその身体は、お前はどんな錬金術を使った?」
そう、目の前の猫神の言う通り。俺の身体は錬金術を使い過ぎてボロボロになっている。
自身の身体を錬金したからではない。身の丈に合っていない錬金を繰り返しているからだ。
「実は、これを」
ポケットから一冊の手帳を取り出す。
先生とアルスの決闘、その後にニャルを通じて渡されたアルスの置き土産。
「アルス・マグナの研究帳です」
「……なぜお前がソレを見て、ソレを使う」
俺は栞の貼られているページを開く。栞は俺が貼ったものではなく、恐らくアルスが貼った物だ。
そのページに書かれているのはとある錬金術による治療法だった。
『特定部位強化による脳信号の伝達齟齬の擬似解消』
智野の足の後遺症、それに対してアルスはこう言っていた。
「その凍結を凍結と見るな。根本の原因は信号の伝達齟齬だ」
伝達齟齬さえなんとかすれば実質的に足は治る。伝達速度が遅いのならば錬金術による強化によってその部分だけ速めてやればよい。そういう理論である。
とある薬品を作り、それを錬金術によって患部に処方する。そういう物だ。
平たく言ってしまえば……この錬金術を使えば智野の足が擬似的とは言え治るというわけだ。
俺はその錬金術を何度も試みて失敗している。失敗したとて錬金術に使用した生命力は戻ってこない。
そう言う訳で俺の身体は、中身はボロボロなのである。
*
「やめろ。と言ってもやめないのだろうな」
「はい、絶対に諦めません」
「しかしこのままでは確実に無駄死にだな」
ボル様は一つのストックボックスを俺に差し出す。
「この世界に来る時僅かに巻き込まれた儂の毛だ。エルフの血とまではいかないが万能たる素材である」
「じゃあこれを使えば……」
「成功とはいかん。コレを使った上で……キミアが錬金して五分五分といった所だ」
それでも今よりは相当良い。
「ありがとうございます!」
「……最期になるぞ」
「え?」
「強力で特殊な素材が故に失敗した時に持っていかれる生命力は計り知れない。この素材を使っての錬金で失敗した時、お前の人生は終わりを迎える」
「……わかりました」
貰ったストックボックスを握りしめる。
必ず、成功させてみせる。
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