「ちょ、智野!? なんでここに」

「それはこっちの台詞! ……でも、思ったより平和ね」

 このまま詰めよられるかと身構えたが智野の視線はニャルに移る。

「ねえニャルちゃん、時間あるかな?」

「んー? どーしたのー?」

「少しお話がしたいの」

「いいよ! じゃあカフェいこうカフェ! あそこのケーキは甘くて素敵なの!」

「え、あ、でも……」

 戸惑いながらも智野はニャルに連れて行かれた。

 残ったのは俺とアルスの二人。

「どうやらニャルに用があったのは少女の方らしい」

「はい、では俺はこれで……」

「出した茶を残していくのか?」

「…………」

 アルスは目で椅子に座れと促してくる。

「まあ座れ。研究も一段落ついた、ニャルが帰ってくるまで話をしようじゃないか」


 *


 緩くなった紅茶を啜り、喉を潤す。

「何か話があるのか?」

「この前の錬金術、あれは何だ」

「どれの事だよ」

「トリストメギスの話だ。ワタシが介入する直前、錬金術の気配がした。アレはお前だろう」

「……ああ」

 身体強化の事だ。結局は不発に終わったがバレていたらしい。


 身体強化の事を話すとアルスは小さく「面白い」と呟いて懐から手帳を取り出した。

「それについてお前の師……そう、シャーリーから何か言われたか」

 そういえばアルスにはシャーリーさんが先生だと誤魔化していた。

 手帳を見ながらなのでシャーリーさんの名前は覚えてないらしい。

「詳しくは何も。ただ使いすぎるな、と」

「そうか、ならば少し授業をしてやろう」

 アルスが指した先には籠に入れられたネズミがいた。実験用だろう。

「視界を変えろ」

 言われた通りに視界を変える。ネズミの生命力などに異常は見られない。

「あのネズミとワタシはコネクトしている」

 アルスの指輪が光り、体力が漏れ出す。それはコネクトを伝ってネズミの方へ近づいていく。

 体力がネズミの中に入り、しばらくすると異変が起きた。

 ネズミの生命力が唐突に乱れ始めたのだ。ネズミは暴れ回り、数分で絶命した。

「……今のように体力、生命力は劇物だ。それを身体に入れようものなら傷つくのは当然の事だ」

 言いたいことはわかる、だが……

「今のは拒絶反応に近くないか? 俺は自身の体力を自身に込めただけだ」

「胃液が逆流すれば喉が荒れるだろう。劇物は適切な位置になければ毒だ」

「……なるほど」

 どちらにせよアレはもう使えない。

「…………」

「…………」

「次はお前の番だと考えたが、無いならばもう一つ。あの少女の足はなんだ?」

「答えたくはないな」

「構わんが、ワタシの興味は消えない」

 言わないならば実際に見て確かめると言ったところだろう。

「わかった、話す」

 どうやら、会話はまだ続きそうである。

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