③
「と、いう訳で足が凍ってるわけだ」
智野の病状を話し終えるとアルスは何やら書いていたメモ帳を閉じる。
「大方予想通りか……実のある話では無かったが時間潰しにはなったか」
酷い言い草だが時間が潰されたのは事実である。玄関の扉が開き、智野とニャルが帰ってきた。
「話はついたか、ニャル」
「うん! 納得してくれた」
智野の表情から読み取るに渋々といったところだろうが、なんとかアルスとニャルが共にいる事に納得したらしい。
「……立ってみろ」
いつの間にかニャルとの会話を終えたらしいアルスが智野の前に立つ。
「立つことはできるのだろう? 支えがあれば自身で歩ける、そうだな?」
「え……あ、はい。そうです……けど」
しばらく智野の足を見ていたアルスが突然しゃがんでソレを掴む
「お前!」
おれが止めに入る前にアルスは手を離して立ち上がる。
「何もしない。診ているだけだ」
智野を支えて警戒する俺の事は全く気にせず、足のみを見ている。
「未熟な解凍による伝達齟齬、錬金術による影響は無し。ニャル、以前から知っていたのだろう? お前ならばどう対象する」
「付け替えるか、作り直すか。難しいけどアルスが出来たなら不可能じゃないでしょ?」
「可能だが……効率が悪いし確実では無い」
「じゃあどうするの?」
「対象を元に戻す必要はない」
少しの間のあと、ニャルが手を叩く。
「そっか、足が動くようになればそれでいいんだ」
「一度錬金薬学を齧ってみろ、錬金術の進歩には無意味だが効率化の面での視点は増える」
「ちょっと待ってくれ!」
いつの間にか智野の足の話題が遠くに行ってしまっている。
「治せるのか?」
「動くようには出来るだろう
「どうすればいい」
アルスは自身の椅子に座る。
「ワタシが数分も考えずに出した結論を、お前は信用出来るのか?」
「…………」
無言の返答を受けたアルスはメモ帳を開く。
「時間があれば考えてみてもいい。期待せずに時を待て」
アルスに聞くのはなんだか釈だが、そうも言ってられない。
「俺自身でも考えてみたい。何かヒントはないか」
「……その凍結を凍結と見るな。根本の原因は信号の伝達齟齬だ」
「脳からの信号が届いていないって事か?」
「そうだ。その部分だけが遅く弱い。ワタシにはそれが視える」
アルスの目も先生や俺と同じだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「ありがとう、参考にするよ」
会話が終わると同時に興味を無くしたアルスは俺たちに目を向ける事なく。
「用が済んだなら帰れ」
とぞんざいに言い放った。
*
アルカロイドについた頃に思い出す。そういえば俺たちは喧嘩をしていたのだった。
「明日セルロースさんに服を新調してもらうの」
この通り智野が普通に話してくるので忘れていた。
「タカ。戻ってきたんだね」
「ああ、これ渡しとくな」
「うむ、確かに」
出迎えてきたアデルに頼まれた荷物を渡す。
智野との件は掘り起こしても良いことは無いし、このままなあなあにしてしまおう。
今はとりあえず……目の前にいる情報漏洩者を懲らしめようと思う。
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