異質なる錬金術師達の幕間
①
「あー! どうすればいいんだ!」
トリストメギスから帰宅して数日、智野が全く口を聞いてくれない。
「うるさいですよ、タカ」
手伝えと渡された食器を並べながらコカナシの方を見る。
「その、智野から何か聞いてたり……」
「聞いてますけど教えません。私はトモノの味方ですから」
「そこをなんとか!」
「手が止まってるぞ」
本を片手に椅子に座っている先生の横槍にムッとする。
「手伝ってくださいよ」
「トリトスに行ってる間、誰がお前の分の仕事をしたと思っている」
「そ、それを言われると……」
溜息をついて夕食の支度をしていると買い出しに行っていたらしい智野が帰ってきた。
「お、お帰り……待とうか?」
「…………」
智野は俺をチラリと見て、無言で横切っていく。
これは……辛い!!
*
智野との仲直りに向けて色々考えた結果、とりあえずニャルの無事をしようという結論に至った。
体裁を気にせず言ってしまえばニャルに口添えしてもらおうというわけだ。
神出鬼没のニャルを探すのは難しいが、今回は同行人がわかっている。
先生達にバレないよう外に出て電話をかける。
「……誰だ」
「御内隆也、数日前トリトスで会っただろ」
数秒の間の後『ああ、錬金術師か』と小さく聞こえた。
「なんの用だ」
「用があるのはニャルだ、会って話をしたい」
『ならば、お前が来い。一週間以内だ』
「……へ?」
戸惑う俺を無視して住所と部屋番号を告げられ、一方的に電話を切られた。
ひとまず……行くしかなさそうである。
*
「と、いう訳で先生に聞かれたら誤魔化して欲しい」
翌日の昼。俺がそう言うと帳簿をめくる手を止めてアデルは眉を潜めた。
「ようやく傷が塞がってきた友人にかける言葉がそれかい?」
「ん、ああ。それはお大事に」
「雑!? ……嫌なところだけキミアに似てきたね」
近くにあったメモ帳を一枚千切り、何やら記入してこちらに寄越してくる。
「嘘には少しの真実を混ぜるべきだ。と、いうことでここに書いてある品を受け取ってきておくれ」
「……わかった。くれぐれも頼むぞ」
アデルの店を出て辺りを見渡す。先生はもちろんコカナシと智野の姿もない。
ついでに噂好きのご婦人方の姿もなし……
「よし、いくぞ」
*
アルスが指定したのはとある町のホテルであった。指定された部屋のインターホンをならす。
「……?」
反応が無いのでもう一度鳴らしたところで着信があった。
表示された名前は『アルス』
『お前か』
「え、ああ。部屋の前まで来ている」
『鍵は開いている。勝手に入れ』
また勝手に切られた。
言う通り鍵は閉まっておらず、難なく入ることが出来た。
一本道の廊下を抜けると椅子に座って紙を見つめているアルスがいた。
「少し待て、座っていろ」
「わかった」
アルスの向かいに置かれた椅子に座る。
数分くらい経ったところで真ん中にある机に三つのコップが置かれた。
「いらっしゃーい」
「おお、ニャル。ありがとう」
ニャルが茶菓子を置き、キッチンの方に戻ろうとしたところでアルスがようやく口を開く。
「ニャル、どうだ」
渡された二枚紙を数分かけて読んだニャルは片方をゴミ箱に投げ捨てる。
「こっちの方がいい」
残った一枚を受け取ったアルスは「ふむ」と小さく声を出してそれをノートに挟む。
チラリと見えたが俺には理解できそうもない数式で埋まっていた。
ありえないほどの砂糖を入れた紅茶を少し飲んだアルスは初めて俺を見る。
「さて、用があるのはニャルと言って……」
言葉が終わる前に玄関から大きな音がした。
「見てくるねー」
軽やかに駆けていったニャルが「わお!」と声をあげる。
「トモだー! いらっしゃーい!」
「……へ?」
智野?
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