㉑
「なん、です、これ……」
ゲラシノスは自身の腹部に開いた大きな穴を見つめて笑顔を崩す。
その穴を開けた一匹の犬は体についた血を振り払う。
「ゲラシノス様!」
俺たちに向いていた銃が獣に向く。しかし一斉に放たれた無数の弾丸が命中する事はなく、全員がその犬にやられた。弾丸を背中に付けられた箱が全てを吸い取ったのだ。
聞くまでもない。その箱はストックボックス。市販品ではないそれを持っているのは先生やアデルなどの数少ない人だ。
加えて目の前にいる黒い犬、ここまで揃えば誰の仕業かすぐに分かる。
ああ、そうだ。ここにはヤツがいたのだ。
口から血を吐いたゲラシノスはゆっくりと部屋に入ってきたそいつを見て小さく声を出す。
「ア……アルス、なぜ……」
「ニャルと天秤に掛けた、それだけだ」
アルスの合図を受けて犬……キメラがゲラシノスにとどめを刺す。
「アルス! 助けに来てくれたの?」
「……ルドルフ」
ぴょんぴょん周りを跳び回るニャルを無視してキメラを呼び寄せたアルスは奥にある別の扉へと数歩進み、ニャルに目を向ける。
「ニャル、来るか」
「え! なに! 錬金術教えてくれるの! やったぁ!」
さっきまで絶体絶命だった人とは思えない喜びようでニャルがアルスの横に行く。
「ちょ、ニャルちゃん! その人は……」
「まて!」
飛び出していきそうになった智野を止める。
「なんで止めるの! あの人はコカナシさんの身体を……」
ああ、聞いていたのか。ならばアルスを警戒するのは普通だろう。しかし……
「今はダメだ、今行けば確実に殺される」
「そんな人のところにニャルちゃんを行かせられない」
「ダメだ!」
俺はアルスの事をよく知らない。それでも分かる、あいつは錬金術の事しか考えていない。
そんな奴が才能の塊であるニャルに何かする筈もないのだ。
「でも……」
「ダメだ!」
このままでは止められないと思った俺は車椅子のバッテリーを取る。
「なにするの!!」
「ごめん、でもダメなんだ……」
いつの間にかアルスとニャルの姿は消えていた。
「わかんない、タカの考えてる事がわからないよ……」
STSを何とかしたらしいアデルとマッカファミリーが合流するまで、俺と智野が言葉を発する事は無かった。
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