俺に殴り飛ばされたビルケは動く事なく、奥からまた違うビルケが現れる。

「残念ジャ……こうも早く到達されるとはな。賢者の石モ見られてしもうたし……潮時ジャな」

「智野をどうする気だ」

「どうもせんヨ、最低限の研究成果は得たワイ」

 それだけ言ってビルケは中身が無くなったように崩れ落ちる。直後、地鳴りと共に壁が二つに分かれる。

「なんですか、これは」

 外からの風にスカートをなびかせながらケテリが目の前に現れたソレを視る。

 智野が入っていた冷凍保存装置に似た巨大なカプセル、その中に溶液に浸かった脳みそがある。まるでSF映画だ。

 そのカプセルにつけられたスピーカーからビルケの声が発せられる。

『では、さよならじゃ。ゲラシノスによろしく頼む』

 再び地が鳴り、カプセルがロケットのように上昇する。

 暴風が吹き荒れ、飛ばされてきた智野をなんとか受け止める。

「何かされてないか!」

「少し血を取られただけ、大丈夫だよ」

 智野を抱えたまま身体を強化して踏みとどまる。

 モウは早々に部屋から逃げ出したらしい。

「逃げられる……!」

 追おうとするケテリも前には進めず何匹かのキメラに支えられて立っているので精一杯だ。


 しかし、一人だけは違った。


「トリトスへの裏切りを確認した……つまり、ぶっ殺していいって事だなぁ!」

 飛び出したのはSISの長女。さっきと同じ大剣を担ぎ風を無視するかの如く大きく飛び上がる。

『お前の大剣でもこのカプセルは切れぬわ!』

「ならば弾けなぁ!」

 長女が切ったのはほんの一部、ロケットのエンジンの一部分だけ。

 でもそれが……精密機械には致命傷となる。

『SIS……キサマァ!』

 トリトスを抜け、空に到達したビルケはそう言い残して爆発していった。

 なんとも、なんとも呆気ない最期である。


 *


 爆風で潰れた機械の上に着地した長女は通信機を耳に当てる。

「ようゲラシノス、裏切ったビルケを始末したぜ。……で、こいつらはどうする?」

 向けられた視線の先には俺たち三人。

「ああ、全員錬金術師だな……そうか」

 通信機を投げ捨て、長女は俺たちに数歩近づく。

「未来ある錬金術師をこんな事で失うわけにはいきません、だとよ」

 そのまま俺たちとすれ違い、長女は部屋の出口へと向かう。

「まあ、つまり……大人しく帰るなら見逃してやるって事だよ」


 *


 長女と入れ替わりでモウが入ってきた。手に持つのは接続された通信機。

「……カリ」

「あ、ああ……隆也です」

『ハロー、此方はこちらで捜査をしていたカリですよ。どうやら其方は無事に済んだみたいで』

「まあ、なんとか」

『安心してるとこに悪いのですがバッドニュースです』

「…………」

 カリは少しだけ声を小さくする。


『ニャルがゲラシノスに連れていかれました』

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