⑯
突き出した拳は嫌にあっさりとビルケの腹に入る。気配を感じて出した裏拳も同様だ。
残った一人のビルケを警棒で倒したモウが隣にくる。
「ビルケ、いっぱい……キリがない」
「え?」
モウの視線の先には数えきれない程のビルケがいた。
「数で時間稼ぎって事か……」
一刻も早く智野の所に向かいたい。
こういう時、先生なら……
「爆弾でも作って突破しそうだな」
しかし今の俺が即座に錬金できるものでもない。そもそも素材がない。
「爆弾ですか。いいですね、それ」
ケテリがそう言うと服の中から一匹の小動物が顔をだす。
「それは……リス?」
「いいえ、大元はスカンクちゃんのキメラです」
ケテリが頭を撫でるとスカンクがビルケの大群の足元に向かう。
そのまま大きく尻を上げ……大量のガスを撒き散らす。
役目を終えたとばかりに戻ってきたスカンクを確認し、ケテリは笑顔を浮かべる。
「モウさん、火はお持ちですか?」
「うん……これ、持ってて」
渡されたコンパクトガードナーを構える。後ろにモウとケテリが隠れ、最後尾のモウが火のついたマッチをビルケの大群に投げ込む。
「ビルケにはお仕置きです!」
ケテリの声は最後まで聞こえなかった。代わりに耳をつんざく爆発音と身体ごと飛ばされそうな爆風が俺に届く。
「いや……先生でもここまでやらねぇよ」
*
「残りのビルケは始末しておきますわ」
先程からやけに笑顔が怖いケテリに任せ、俺たちは先に進んだ。
入り組んだ道を進み、見るからに頑丈な扉の前に立つ。
「……奥に生命力が見える。ここで間違いない。開けるか?」
「無理、この扉は機械。ハッキングは……カリ」
「壊れる雰囲気もない……とりあえず誰かに連絡を」
「……あ」
取り出したモウの通信機が光っている。これは……着信だ。
『あー、テステス、テステース。ハローモウ、聞こえてますかぁー? こちらカリですよー!『僕、アデルもいるぞぉ!
『ふざけてるんじゃないよアンタ達は! 仕事に戻るんだよ! 貸しな!』
「……モウ、いる」
『大体の状況はケテリから聞いてるよ。今何処にいるんだい?』
「ビルケの部屋の前です」
『早かったね、上出来だよ』
「でも鍵がかかっていて……」
『それくらいは予測済みだよ。カリ! 状況は?』
『オーケーです、完璧ですともマッカ姐! ハッキング成功! 扉、開きますよ!』
カリの声と共に扉が開く。
奥に見えるのは一人のビルケと寝台に横たわる智野。
俺の錬金はもう、済んでいる。
「離れろ……!」
振り返る間も与えず、俺はビルケを殴り飛ばした。
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