⑪
一枚の仕切りで隔てられた向こうから金属音が鳴り響く。アデルと三女の得物がぶつかり合っているのだ。
「さっきの鍵ソードは使わないのかい?」
「あれハ鍵だから、欠けたら大変」
「ははっ、ちがいない!」
アデルの一撃で三女がもつ剣が弾き飛ばされる。しかし三女は顔色一つ変えずに飛んで行った剣をチラリと見てバックステップ。
「あらら、じゃあ、次」
壁に背をつけた三女はアデルの追撃を右腕で受け止める。
「なっ……その腕!」
切り裂かれた服の下から見えたのは明らかな義手。怯む事なく屈んで切りつけたアデルはその下に義足を見つけ間合いを取る。
「まさか全身機械なのかい?」
「いいえ、半身だけなの」
三女の手には機械的な槍が握られている。
「弱くはないケド面白くないわね、終わりにしましょう」
三女の槍が機械音と共に発光する。
「標的入力、彼ノ心臓」
手から離れた槍の持ち手から火が出る。ジェット噴射の如く槍が飛行してアデルの元へと向かう。
難なく避けるが……
「やっぱり追尾機能付きかい、ほんとメカニカルだね!」
そう言いながら逃げ切れなかったアデルの胸に槍が飛び込み……槍が消滅した。
それを見た三女は「へえ」と声を上げてニヤリと笑う。
「面白いじゃない」
*
「機械による神話、逸話ノ再現。それガワタシノ趣味なの」
「それは素敵だね、さっきの槍はグングニルといったところかい」
「そう、必中ノ槍なの」
「知ってるかい? その槍は向けた軍勢に勝利をもたらすらしいよ」
「よく知ってるわネ、世界共通ノ神話武器ハ対策されそう」
お互いの武器が金属音を鳴らし間合いが開く。
「でも逸話武器ハどうかしら?」
「僕はそういうのも好きだよ」
「逸話ハ世界共通じゃないの、だからコレが何かは知らない筈」
三女の義眼が白く濁って光る。壁の中から取り出されたのは一本の刀。
黒い鞘から出てきた刀身が光に反射する。
「これハ黒い牛ヲ切り、素早い猿ヲ切り、馬ト鞍ヲ切りし刀」
「……確かにその逸話に覚えはないね」
アデルが取り出したのはカリが使っていたコンパクトガードナー。
「…………」
俺には覚えがあった。それは有名な逸話を持つ刀だ。
その逸話を再現するなら……
「アデル! それを受け止めるのはダメだ!」
「うむ? そうなのかい?」
疑問符を浮かべるアデルとは対照的に三女は目を見開く。
「知っているのネ、貴方モそうなのね」
刀を構え、義眼の少女はその名を告げる。
「黒坊切景秀……いくよ!」
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