『はいはーい、こちらカリ&アデルでーす。感度良好、聞こえてますよマッカ姐』

「ニャル捜索は一時休止、ビルケへの対抗とトモノの守護に変更だよ」

『へ? ビルケが敵ですか? それまたどうして』


 マッカさんが簡潔に説明するとカリは「ううむ」と唸った。

『ひとまず合流、といきたいですが……一つに固まるのは悪手な気がしますねぇ』

「アタシも同じ意見だよ。ビルケは一網打尽にする算段の筈だ、最低でも二チーム別れておきたい。前線と後方支援、どう考える?」

『ではワタクシ達が後方支援に回りましょう、施設の事を知ってなければ出来ない事も多いでしょう』

「わかった、ワタシはそっちに向かう。代わりにアデルを寄越してくれ」

『了解した! このアデル・セルピエンテ、親友の元へ馳せ参じよう!』


「……さて、次こそ繋がるかな」

 カリとの通話を切ってモウのほうに繋げる。さっきは繋がらなかったが……

『…………モウ』

「ああ、モウかい? 何か変化はないかい?」

『追われてる……』

 マッカさんは「もう刺客が来たのかい」と小さく舌打ちする

「どんな感じだい?」

『今は隠れてる。……見つかれば逃げる』

「倒せはしない、という事だね。それでいい、三人行かせるから時間稼ぎに徹しな」

『……近い、切る』

「…………」

 通話は唐突に終わった。

「シスターズでしょうね。荒事なら彼女達が出ます」

「次女、四女、末女はゲラシノスについていた筈だ。まあ、長女だろうね。とりあえずアタシはカリの所へ向かう、通信機は……ケテリが持っているね」

 頷いたケテリを見てマッカさんは通路を走っていった。

 こんなところで立ち止まってるわけにはいかない、急いで智野の所へ行かなければ。

「ケテリさん、智野の場所は」

「はい、先程通信した場所は受け取ってあります。アデルさんとの合流地点も通り道にありますね」

「じゃあ」

「ええ、急ぎましょう。あまり目立ちたくはありませんが、仕方ないですね」

 ケテリが指笛を鳴らす。少しの間のあと、近くの排気口から三匹の豚が飛び出してきた。

「ファイブァー、フィトラー、フラクティカル。可愛い子供達です」

 見た目に違和感はないが、恐らくキメラなのだろう。

「少し、乗せていってくださいね」

 ケテリがそう言って撫でると三匹は嬉しそうに鳴き、一匹がケテリの前でしゃがみこむ。

「タカヤさんも、どうぞ。胴体を掴んでいてくださいね」

 目の前でしゃがんだ一匹に恐る恐る乗る。俺が安定したのを見計らって豚は立ち上がる。

「ではまずアデルさんとの合流を。ファイバー、ここに向かってください」

 ケテリさんが耳からイヤホンのようなモノを取り外し、誰も乗っていない豚、ファイバーに何かを聞かせる。

 生命力しか見えないのに場所をどう把握しているか疑問だったが、あのイヤホンから何かしらのガイドがあるのだろう。

「では、出発です」

「は、はい。よろしくな」

 ファイバーを先頭にケテリさんが乗るフィトラー、俺の乗るプラクティカルが続く。

「あ、タカヤさん」

「はい?」

「加速しますので……舌を噛まないように」

「……へ?」


 *


 凄まじい風圧。もし手を離したなら……

「……死ぬ!!」


 *


「合流地点はここらへんの筈ですが……あら? どうなされました?」

「いや……あのスピードでなぜ平然と……死ぬ……」

「では少しお休みになられてください。アデルさんもまだきて……」

 ケテリの言葉が止まる。

「どうしました?」

「アデルさん、それと敵がいます」

 その視線の先には何もない。部屋の扉くらいか。……いや、ケテリには生命力が見えているんだった。

「てか敵!? なら援護しないと!」

「あ、タカヤさん、でもその部屋は……」

 ケテリの声が届いた時には、俺はもう部屋の中に入っていた。

 伸びてきたケテリの手は俺に触れることなく、扉が勝手に閉まる。

「くそ、また閉じ込められた!」

 また獣でも来るかと身構えたが、何もこない。てかこの部屋には殆ど何もない。

 四畳半程の真っ白な部屋である。あるのは一つのスピーカーのみ。

『……お客様ガ来たようですね』

 女性の声と共に前方の壁が透明になる。モニターだったのか……

 透明になったその先には通路を挟んで同じような部屋がある。その中に人影が……

「アデル!」

 声は通るらしく振り向いたアデルはいつものキメポーズ

「ふっ……閉じ込められてしまったよ」

「格好つけて言う事じゃねぇよ! まあ俺も捕まったんだけど」

「ワタシノ取り分ハ揃ったのね」

 俺とアデルの部屋の間にある通路を一人の女性が歩いてくる。

 固そうで丸みのある、鎧というよりはメカニックなドレス。異様なほど毛先が揃ったおかっぱボブの下に見える右目はわかりやすい義眼である。

「ワタシハ三女、メカニカルナ三女。傭兵部隊『STS《シスターズ》』ノ三女。貴方たちヲ殺していいと言われたの」

 三女が指を鳴らすとアデルの方のガラスが消える。

「おっと……僕にご用かい」

「貴方ガ最初二来た、ダカラ貴方から殺すの」

「僕を殺す事は確定しているのかい。舐められたものだね」

 アデルが腰につけているストックボックスから取り出したのはフィジーさんと同じ剣槍。それをみた三女は義眼を輝かせる。

「それが貴方ノ武器なのね! 面白そうじゃない」

 三女が取り出したのは鍵のような形をした剣、床にある穴にソレを刺すと俺のいる部屋が動き出し、通路は大広間へと変形した。

「じゃあ一人目……殺すね」

「アデル・セルピエンテ……迎え撃とう!」

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