⑨
ケテリが手に持つのは武器と言うより料理用の包丁、それでも振り回されれば脅威というものだ。
幸いにも動きは拙い。採取中に出てくる獣にくらべればなんて事ないが……右手が使えない。
装備の強度を上げて刃を凌いでいるが、いつまで持つか……左手も疲れてきた。
「よくも……よくもあの子を!!」
「なんのことだ! 話を聞いてくれ!」
「聞かない!」
「……っ!」
話したことで反応が遅れた。刃先が顔に近づいて……身体が動かなくなる。
刃は身体に触れていない。俺と、恐らくケテリの動きを止めたのはマッカさんが持っている二つのスタンガン。
起き上がろうとしたケテリを抑えて包丁を奪い、マッカさんは唇を舐める。
「で、どういう事だいケテリ」
「どうもこうも、貴女達があの子を殺したから!」
ケテリが指したのはキマイラ。
「まさか、アレを生み出したのはケテリ……」
「そうです! わたくしの子供です!」
「その子供ってのはこんなに大きかったのかい?」
「え……?」
キマイラの方を見たケテリが大きく目を見開く。
「そんな……なんで、なんで、わたくしの膝の上で遊んでいたじゃない……」
「もう、襲ってはこないね」
ケテリを解放したマッカさんは俺の肩に手をかける。
「え、ちょ、な、いたぁ!?」
「うるさいね、男なら大人しくしな。治してやったんだから」
「え……?」
脱臼が治っていた。すげぇ痛いけど。
「あの男、あの男ね……」
マッカさんは何か呟いているケテリの肩を叩く。
「さてケテリ、協力しようじゃないか」
「協力?」
「ああ、アタシ達の敵は共通している。そうだろ、タカ」
「へ? ゲラシノス?」
「それはケテリの敵じゃあない。ケテリ、アンタはわかるだろう?」
「ええ、あの子は病気だったのでビルケに預けていました。あの子をこう出来るのはビルケだけです」
ビルケ? ビルケは確かにトリトス側だけど……
「俺たちの敵、ですか?」
「何とぼけた事言ってるんだい、アタシ達にここを教えたのはビルケだろ?」
「じゃあここで俺たちを始末しようと」
「それならあの研究室でしていたさ。ビルケは何を望んでいた?」
ビルケは俺たちの才能の研究を……そうだ、その時に……
「智野の才能」
「そう、ビルケは彼女の才能を覚醒させたがっていた。人の能力というのは危機的状況にて覚醒するって言われてるからね」
「でもここに智野はいないですよ」
「アタシ達が別れて探索するとは知らなかっただろうからね」
「じゃあ、もしかして……」
肩の痛みはもうない。代わりに悪寒が走る。
「智野が危ない!」
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