⑥
「トリトスのNo.2……」
そんな人にバレるというのは相当ヤバイんじゃ……
「警戒するなと言っておるじゃろ。ゲラシノスには言わん……条件次第では、な」
「条件かい? アンタの事だからろくなことじゃあなさそうだけど」
「カッカッ、マッカの姉ちゃんは厳しいのう! さて……」
ビルケは分厚い眼鏡の縁を回して俺たちに眼光を飛ばす。
「錬金術師はそっちの二人、か……ほう! どっちも異界の才があるではないカ!」
「なっ! なんでそんな事まで」
「なんて事はない、エルフの目の劣化疑似再現じゃよ。テケリと違って外付けじゃがな」
エルフ自体は珍しいが生命力を見るだけならここでは容易なのか……
「時間がないのはわかっているだろう? 条件を早くいいな、ビルケ」
マッカさんの言葉にビルケはまたケタケタと笑う。
「なあに、簡単な事じゃよ。お前ら二人の異界の才を調べる。それが条件じゃ」
*
「別に薬品とか塗っておらんよ」
自身の研究室で溜息をつくビルケを他所に俺は注射器を見つめる。
薬品の色、匂いなし……一応消毒もした。まあ、大丈夫だろう。
「本当に血を取るだけだろうな?」
「警戒心が強いのう……なんならお前ラでやるといい」
俺から奪った注射器がマッカさんに渡される。
「全く、仕方ないねぇ」
「おや、ミス・マッカはそんな資格まで持ってるのかい?」
「もちろんさ、資格のマッカを舐めんじゃないよ。ほら、さっさと腕出しな」
マッカさんは手際よく俺たちの血を採取した。それを受け取ったビルケは機嫌良さそうに俺を見る。
「お前さんの才はなんじゃ?」
「……エルフの目と似たようなモノ、目を切り替えれば生命力と体力が見える」
「ほう、体力まで見えるか。それはまだこの眼鏡でも再現出来ておらぬのよな……で、お前さんは?」
「あの……わたしは、えっと……」
智野の才能は俺のように単純じゃない。わかっているのは人より少ない時間で錬金が出来るという事だけ。
それがエルフのように体力の質によるモノなのか、それとも素材自体に影響を及ぼしているのか、はたまた体力を出し入れするスピードが速いのか……色々あってそこら辺は曖昧になったままだ。
それを聞いたビルケは頬をあげてニタリと笑う。
「それは良い才能じゃ、再現出来たなら錬金界に革命が起きる。その才能が真に目覚めておれば研究も捗るというのに……惜しい、惜しいもんじゃ」
そう、俺のように才能の開花を急いでない智野はボル様による命名を受けていない。もし才能が真に開花すれば色々とわかるのだろう。
「……まあよい、これでも相当なモンじゃ」
「終わりかい? じゃあアタシ達は行かせて貰うよ」
「まて、しばしまて。良い才能を見せてもらった、お釣りが出るわい」
ビルケが一枚の紙を投げてくる。
「これは……地図だね。この施設の地図だ」
「でも地図ならマッカさんが持っていた……あれ?」
マッカさんのモノには載っていなかった部屋などが幾つかある。
「それは幹部クラスに渡された真の地図。特殊素材の倉庫だったり聖堂だったりニャルの興味を引くモノはここに多くある、そうジャな……」
ビルケがフロアの一画を指す。
「ここは特殊生物飼育場、ニャルはここがお気に入りじゃ」
それだけ言ってビルケは俺たちの血を何かの機械にセットして操作を始める。
「ほら、研究の邪魔じゃ。さっさといけ」
半ば無理矢理追い出され、俺たちは廊下に立つ。
「どうします?」
「特殊生物、確かにニャルのやつは好きそうだね。でも常に移動してるようなヤツだし、やっぱり三グループに分けようかね」
「ゲストだけで行動すると怪しまれます、ワタクシ達は分かれた方がいいと思います」
「そうだね、じゃあモウはトモノと一緒に行きな。アンタなら車椅子の不調くらいどうにか出来るだろ?」
モウが頷いて智野の隣に立つ。その配慮はとてもありがたい。
「カリ、アンタはアデルと。アデルならカリの道具を説明無しに扱える」
「ああ、このアデル・セルピエンテに使えない物は無いさ!」
「で、タカはアタシとだね。消去法になったが不都合はないだろう」
「はい。よろしくお願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます