「じゃ、何かあれば連絡するんだよ」

「……ん」

「了解ですとも」

 この閉鎖的な施設ではPHSの類が上手く繋がらない。確実な連絡手段はマッカファミリーが持っているトランシーバーのような物になる。


 皆と別れて少し歩く。俺とマッカさんが目指すのはビルケが指した『特殊生物飼育場』である。

「そもそも特殊生物って何ですか? 突然変異種とか?」

「突然変異? ああ、一時話題になってた白狼みたいなモノか。まあ、あれも対象だろうけど……あそこにいる殆どはキメラだよ」

 キメラといえば思い出すのはテケリである。しかしテケリは自身が作り出したキメラを部屋で飼っていた筈だ。

「テケリ以外にもキメラを作ってる人が?」

「ああ、ここは錬金術師が集まる場所だからね。ただちゃんとした生物になるのは稀。命を取り留めても大体は特殊環境下でないと生きられないヤツばかりさ」

 言い終えた後、マッカさんが立ち止まる。

「この先がその飼育場。広くて迷いやすいからついてきな」


 *


「…………」

 入り組んだ通路を歩きながら沢山ならんだ水槽などを見渡す。

 目の無い魚。口が閉じない鮫。どれも見るからに欠陥がある。

「奥に行けば行くほど成功したキメラになる。例えば……こいつとかね」

 マッカさんが指したのは一羽の鳩。やけに大きい以外変わりはない。

「みるのはあの鳩の下、卵だよ」

「……っでか! ダチョウの卵くらいありますね」

「ああ、アレはダチョウと鳩の卵。まあ同じ鳥類なら少しは成功しやすいのさ」

「なるほど」

 その後見た成功例も同じ種類だったり、そもそも動物じゃなくて植物だったり。アルスやテケリが扱うようなファンタジーのキメラらしいキメラはいないようだ。

 あと、ニャルもいない。

「あ、一周したようですね」

「まだあるよ。一周の中心になってた所も部屋でね、そこは更なる成功例。……ってもケテリが預けたモノばかりだけどね」


 *


「……なんだい、コレは」

 中央の部屋に入った俺たちが見たのはキメラの死骸だった。

 それぞれを囲っていただろうガラスは割れ、おびただしい量の血と死骸が転がっている。

「……咬み傷、だね」

 死骸の傷跡を指してマッカさんが呟く。

 たしかに咬み傷ではあるが……咬み傷というには大きすぎる。まるで白狼……イアンくらいの大きな獣が暴れまわった後のようだ。

 呆然と見渡していると後ろの扉が勢いよくしまった。

 まさか、と思いながらドアノブに手をかけるが……回りはしない。

「マッカさん! 閉じ込められました!」

「そんな事は見ればわかるよ! それよりも見るものがあるよ!」

 マッカさんの視線の先に大きな影が見える。

 地鳴りのような足音に頭の奥に響く呼吸音。

「こいつは……」

 ライオンの頭に山羊の胴体、尻尾の蛇は歯から毒のような物を垂らしている。

 これでは、こんなのはキメラでなく、まるで……

「まるで、キマイラじゃないか」

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