都会のはずれにポツンと巨大な施設がある。科学館くらいの大きさはあるだろう。

 看板には様々な言語が書かれている。もちろん俺の知るネ語もあった。


『錬金団体 トリスメギストス』

 信仰と技術が集まる地、ここにニャルが……

 マッカファミリーについて施設に入る。入口に繋がる大きな広間、ここから様々な場所に枝分かれしているようだ。

 マッカさんは迷わず受付らしいところへ向かう。

「マッカファミリーだよ」

「マッカファミリーの三人……と、残りの三人は誰だ?」

「そんな事はいいじゃないか。話は変わるが、これ欲しくないかい?」

 受付の男に巾着袋が差し出される。中身を見た男は不満そうにマッカさんを見る。

「三人だろ? これっぽっちか?」

「それは前払い分さ。あたし達が無事出れたら残りは渡すよ」

「……マッカファミリーの三人、承諾した。おっと落とした」

 男がわざとらしく落とした分を含む六つのカードを持って帰ってくる。

「これはこの施設のカードキー、会員証ってやつだね。このゲストってのがあんた達のだよ」

 渡されたカードに書いてある文字は読めない。マッカファミリーの分はそれぞれの顔写真がある、あれが本来の物なのだろう。

「マッカさん、ニャルちゃんは何処にいるんですか?」

「そう焦るんじゃないよ。それにニャルの場所なんて誰もわかりゃあしないさ」

「例の脱走以降ゲラシノスが側に置いているようですが……」

 カリが辺りを見渡して忙しそうな男を捕まえる。

「ニャルはどうなってます?」

「ああ、マッカファミリー……また脱走したよ。暇があるなら手伝ってくれ」

「ええもちろん。仕事がてら探しておきましょう」

 慌ただしく走っていく男に手を振り、カリはその人を指す。

「あの制服が宗教面に属している人になります。技術面の方々は自由な服装ですね」

 さっきの男の他にも同じ服を着ている人が多数いる。白衣を思わせる白服の上に錬金用コートを羽織っている。

「さて、さっき聞いたとおりニャルはまた逃げ出したようですね。この施設から出るのは難しいので何処かで遊んでいるのでしょう」

 言いながらカリは沢山ある通路の一つを指す。

「あちらは技術面の施設に繋がっています。恐らくそっちの何処かにいるでしょう」


 *


「そういえば宗教面の……ゲラなんとかってのはどういう人なんだい?」

 通路を進みながらアデルが話題を作り出した。

「ゲラシノス、あたし達もよく知らないけどね。ともかく神を信仰し、錬金術を広めようとする奴だよ」

「ミス・ニャルを連れ出しているのも広める為なのかい?」

「いや、ニャルに関しては別。ゲラシノスはニャルを『神の子』と呼んでいるのさ」

「神の子……」

 確かに錬金術の素質はそう呼んでしまいそうなくらいのモノだった。

「さて、と……ニャルが行ってそうなのは……」

 呟きながらマッカさんが立ち止まる。目の前の扉には『tekeri』の表札が貼られている。

「ではではお三方、お願いします」

「え? 俺たちだけ?」

「少し個性的な子でね、アタシ達は嫌われているんだよ」

 背中を押してきたカリが俺たちに耳打ちする。

「気味が悪いかもしれません。しかしヘタにリアクションを取ると嫌われてしまうのでご注意を」


 インターホンを鳴らして数秒、スピーカーから女性の声が聞こえた。

「……どなた?」

「あの、タカヤといいます。ニャルって子を探してて」

『ニャルのお友達なのですね。開いてますのでどうぞ』

 そっと扉を押して俺たちは部屋に入る。マッカファミリーはいつのまにか消えていた。

「……!?」

 俺たちは揃って息を飲んだ。そこにいたのは一人の女性。

 服は黒を主とした……ゴスロリといった感じだろうか。

 頭には五芒星のような花のような帽子が乗っており、そこからウエディングドレスのようなベールが垂れている。

 ベールの隙間からチラリと見える髪は綺麗な金髪。全体的にファンシーというか……そう、人形のような少女だった。


 息を飲んだのは少女の美しさに……ではない。もしそうだったら智野から容赦のないパンチが入っていただろう。

 俺たちが驚いたのは少女の膝に乗っている生き物である。


 丸い一頭身に大きな単眼。身体の殆どに細かい毛が生えているが額の部分だけは肌が見えている。

 よくよく見ると小さな口がついており、金魚のようにパクパクと動いている。

 なんだか全てがミスマッチで気味の悪い生物である。

 アデルも驚いているしこの世界でもコレは歪なのだろう。と、いうより……生命力が余りにもちぐはぐだ。

「もしかして……キメラ」

「ええ、正解です。やはりあなた方は錬金術師なのですね」

 少女は目を閉じたまま立ち上がり、スカートの端を摘んで丁寧なお辞儀をする。

「わたくしはテケリ・イニーシェ。どうぞテケリとお呼びくださいな」

「タカヤ・オナイ……です」

「屋久寺……あ、トモノ・ヤクジです」

「僕はアデル・セルピエンテ、錬金術師では無いよ。ところでミス・テケリ、その生物はキミが作り出したのかい?」

「ええ、そうよ。わたくしはキメラを生み出すのが得意なのです。この子は色んな『可愛らしさ』を合わせた子なのです」

「色んな……可愛いらしさ」

 どこにソレがあるのだろうか。全く理解できない。

「ええ、可愛らしさです。可愛いらしさにもパターンがあるのです。それを合わせてみました」

 テケリは指折り数え、語り出す。

「・頭身が低いこと

  ・目が顔の低い位置にある」

  ・目が大きく口は小さい

  ・ふわふわな毛で覆われている……など色々ですわ」

 確かに全ての条件に当てはまってはいるが……やっぱり全てがミスマッチだ。

 この違和感と歪さに彼女は何故気づかないのか……

「あの、失礼な事をお聞きしますが」

 テケリはおずおずと手を挙げた智野の方を向いて微笑む。

「はい、なんでしょう?」

「もしかして……目、見えてなかったりします?」

「はい、生まれつきなのです。でも完全に見えないわけではありません」

 テケリは足の下で跳ねているキメラを抱き上げ、小さく笑う。

「わたくし、生命力が見えていますの」

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