「トリトスの本拠地はここより南、ヘルメスという場所にあります。少し時間はかかりますが交通機関でたどり着けますし……まあ、休みながらいきましょう」

 交渉の翌日、俺たちはアルカロイドを出発した。

 心配そうなコカナシといつも通りの先生に別れを告げ、バスに乗り込む。

「まって! ストップ! ストップ、プリーズ!」

 発車直前、駆け込み乗車をしてきたのはアデル。彼が入ると同時にドアが閉まる。

「……忘れ物でもしてたか?」

「違う違う、僕も付いていくよ。傭兵団を目指してた事もある。足は引っ張らないさ」

 確かに猪と格闘したり巨大マンドレイクから逃げ切ったりと運動神経は高い。だが……

「ナディは大丈夫なのか? フィジーさんはまだ傭兵団にいる時期だろ?」

「それについても問題はナッシング。コカナシちゃんとセルロースに頼んで来たさ。ナディは喜んでたよ……最近は僕に隠し事をするしセンスが無いと言うんだ……ほんと女性の事はよくわからない……」

 愚痴をこぼし始めたアデルを座らせ、窓の外を見る。いつのまにか見慣れた風景は消え、街が近づいて来ていた。


 *


「さて、ここからしばらくこの電車。トリトスについて質問あるかい?」

 駅弁を食べながら真っ先に手を挙げたのはアデル。

「そもそもトリトスってのはなんなんだい? 僕はそこら辺からよく知らない」

「そうかい、じゃあそこからおさらいしようかね」

 視線を送られたカリが咳払いをする。

「トリスメギストスには二つの顔があります。一つは『ヘルメス神』を崇め、錬金術を神の術とする宗教団体です」

「ヘルメス・トリスメギストス? わたしの世界で賢者の石を持つ錬金術師がそういう名前だったような……」

 どこから仕入れたのかわからない智野の知識にカリは反応する。

「そう、ヘルメス神は異界の者と言い伝えられています。この世界に錬金術を持ち込んだ原初の人物、と……話が逸れましたね」

 カリは茶で喉を潤す。

「二つ目の顔は錬金知識の集合地。様々な錬金術が集まり知識や技術を共有しているのです。ニャルやアルスはこちらの門からトリトスに入ったわけですね」

「しかしニャルはその才能をゲラシノスに見出され神の子として宗教方面に連れ込まれたらしいね。待遇はいいみたいだけどあの子は自由が好きだからねぇ」

「だからミス・ニャルを連れ出す。そういうわけだね」

 パンを頬張りながら頷くアデル。いやいや。

「お前、何も知らずについてきたのかよ」

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