③
翌朝、早速旅立つ事となった俺たちは監視役になった例の子と顔合わせをしていた。
「オレの名前はアルトロメリア、普通の人と見た目は殆ど変わらないけど力は強いぜ!」
「長い名前だな……メリアでいいか」
先生の言葉を聞いたアルトロメリアは気まずそうに頬を掻く
「そのあだ名で呼ばれるとなんだかむず痒いな……アルでいいよ」
「じゃあアル、お前はなんの動物とのキメラだ?」
「え……?」
いきなり失礼な事を聞くのはいつもの事として、先生なら合成された動物くらい見抜けそうなものだが……
一晩寝て目の疲れも取れた。試しに視界を変えてみる。
他の獣人を見た感じでは獣の部分だけが人間とは違う生命力だったのだが……アルのは明らかに違った。
ベースはもちろん人間だ。しかし混じり合っていると言うかなんというか……後付けではなく最初からそうであったかのようだ。
そういえばアルは他の人に比べて若い。もしかして……
「アルは獣人と獣人の子だったりするのか?」
「ん? あ、言ってなかったか? だからオレの見た目は人間寄りなんだ。感情が昂ぶると色々出ちゃうけどさ」
「で、なんの動物なんだ」
そうだ、先生の質問の最中だった。
アルは少し考えて
「父ちゃんが犬、母ちゃんは熊、どっちも種類はわかんねぇけどそう言ってた」
「なら嗅覚は優れていそうだな」
「もちろん、ジュージが付けた匂い玉だって追おうと思えばここでもわかる」
「それは頼りになる。さて、難癖をつけられる前にも行くか」
先生がアルの背中を押す。先導を任されたアルは鼻を擦ってヒクつかせ「こっちの方」と森の奥を指した。
*
「夜、だな」
「森の夜は暗いですねー」
捜索する事数時間、ある程度の場所までは掴めたのだが……
「ここら辺を何度も往復したみたい。これ以上は嗅覚で探せない」とアルがお手上げ状態になってしまった。
「夜は獣が出るぜ、火持ってない?」
アルが集めた木々に着火ライターを使って火をつける。
「今日のメシはこいつだ!」
いつのまにか狩っていたらしい獲物が並べられていく。
ネズミのようでどこか違う謎の小動物、たくさんの小魚にそこらへんに生えていた草。
「……これ下処理無しで食えるのか?」
今はコカナシも智野もいない。アルは……焼く準備をしてやがる。
「これハーブだから一緒に焼いたら臭みが消えるんだ」
現地の人が言うんだ、間違いあるまい。
焼けた小動物の肉は意外と普通の見た目をしていた。
「…………」
流石の先生も躊躇している。先生と目配せをして同時に食らいつく。
「……まずくは、ない」
「ですね」
だからと言って美味いわけではない。焼きすぎて少し水分の少ない鶏肉といったところだろうか。
そんな微妙な鶏肉もどきを食べていると先生が一方を見つめて声を上げる。
「おい、誰だ」
俺たちはその発言に目を丸くする。人の気配なんて微塵もしなかったというのに……
視界を変えると先生が見る茂みには確かに人の生命力があった。大きさ的には中性族の大人だろうか。
こちらの様子を伺っていたらしいそいつは頭を掻きながら姿をあらわす。
「へえ、よくわかりましたね」
小柄で細目のその男は火のそばに腰を下ろす。
「お前はここら辺のヤツか?」
「ここら辺って、ここは森の中ですぜ? ワッチは少し野暮用でいるだけでして……そちらこそこんな所で何を?」
「野暮用でな。話は変わるがここら辺で人身売買の施設があるのは知ってるか?」
先生の言葉に男の目が更に細くなる。
「はて? ワッチはそんな物騒な話わかりませんねぇ」
わざとらしい口調で男はとぼける。むしろ嘘だという事を主張するようなその言葉に先生はため息をつく。
「そういえば挨拶がまだだったな。ワタシはキミアだ」
差し出されたその手を男は笑顔で握り返す。
「ワッチはウリボウって呼ばれていますぜ」
握手したその手をポケットに突っ込み、ウリボウはまたもわざとらしい口調で話す。
「そうそう、人身売買の施設でしたね。ワッチで良ければ案内しますぜ?」
「ここから近いのか?」
「ええ、ええ、ワッチと一緒に行けばすぐでして」
火の始末をして先生が立ち上がる。何がなんだかわからないが、とりあえず案内してくれるようである。
*
ウリボウについて森を歩く中、アルが小さな声で話しかけてきた。
「なあ、キミアってのはこういう事に詳しいのか?」
「人身売買の事? いや、そうは思えないけど……なんで?」
「さっきウリボウと握手した時に金を渡していた。オレは見えたけどあんなにすんなり出来るってのは慣れてるのかって」
全然気づかなかった。どうりでウリボウの態度が変わるわけだ。
「さあ……先生の過去はよくわからないからなぁ」
視線の先にいる先生はウリボウと話をしていた。
「ところでキミアの旦那……旦那でいいんすかね、旦那はどんな職業で?」
「医者をやっている」
「ほう、お医者様で。今回はどんな子をご入用で? 年下の方が好みですかな?」
「いや、そういう用途じゃない……獣人を捕まえたってのは本当か?」
ウリボウの目が少し開く。
「おや、どこでそんな情報を仕入れたんです?」
「それは言えないな」
「まあ、そうでしょうな。因みに……獣人はお高いですぜ?」
「あれだけあれば足りるだろ?」
アルの持っているキャリーバッグを指す。中にはぎっしりと札束が詰まっている。
「へえ……こりゃあ上等なお客様だ。そこまで出すのは訳が? 獣耳がお好きというわけでもないでしょう?」
「実験用だ。錬金薬学師を兼業していてな、その獣人はキメラなんだろう?」
「へえ、そのように聞いております。なるほど、実験……ワッチにはわかりませんが相当価値があるのでしょうな」
どこか上機嫌なウリボウに向かってアルが口を開く。
「なあ、さっきから同じところばっかまわってないか?」
「大丈夫ですよ、それが合言葉がわりですから」
ウリボウが獣道の前で立ち止まる。
「コードネームウリボウ、お客様を連れてまいりましたぜ」
数秒の間の後、ウリボウが土を払うと地面から階段が顔をだした。
階段を手で指し、ウリボウは俺たちに向けてニッコリと笑う。
「ワッチらの施設は地下にあるんで、ではでは、足元にお気をつけてどうぞ」
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