④
「ん? お前ネックレスはどうした?」
階段を降りようとしたら先生に止められた。
首に手を当て、俺は辺りを見回す。
「……落としたかもしれません」
大きく溜息をついて先生は「しょうがない」と俺たちに背を向ける。
「ウリボウ、ワタシたちは少しネックレスを探してくる」
「おや、それならワッチも探しますぜ?」
「いや、大丈夫だ。それより先に手続きを済ませといてくれ、入るのに色々あるんだろう?」
「へえ、では手続きが終わったらここで待っていますぜ」
ウリボウを置いて俺たちは来た道を少し戻っていった。
「さて、ここら辺でいいだろう」
先生が足を止めたのを見て俺はポケットからネックレスを取り出して首に飾る。
ネックレスには欠けた錬金石……白狼討伐戦の時イアンに齧られたソレが付けられている。
「おい、アデルのストックボックスは何個残っている?」
『アデルの』と付けるからには音声認識型のアレだろう。ニャルにいくつか投げられたから……
「二個、ですね。中に火を入れています」
「一個よこせ、予定通りいく」
「え? 予定? 何、どういう事だ?」
ストックボックスを持った先生が作業をしている間、戸惑うアルに先生との打ち合わせを伝える事にした。
「実は知り合いの傭兵団に連絡をしてて、その人にアジトの場所を教えるために仕掛けを作ってんだ」
「ふうん……ま、ヒメが助かるなら何でもいいや」
「アル、お前は誰かに見られてないか探っとけ」
先生の命令口調に少しムッとしたが渋々とアルは頷く。
「誰もいないっての。足音も匂いもなし」
「そうか、ならいい」
先生は振り向く事なくストックボックスに紙を入れ、木の上に隠す。
フィジーさんがアデルの詠唱的なアレを言ったらこのストックボックスが開いて中に入れたライトがストックボックスの場所を知らせる。
詳しい場所はライトと共に書き置きしてるってわけだ。
「タカ、ネックレスはつけたな? よし、なら戻るぞ」
*
戻るとウリボウが吸っていた煙草を踏み潰して手をこまねく。
「おかえりなさいませ、ネックレスは無事見つかったようで、なによりです」
「待たせたな。手はずは整ってるか?」
「へえ、それが夜も更けておりまして、旦那のお求めになった品は責任者同行の決まりがありまして……」
「つまり明日を待てという事か」
「そうでございます。もちろん今宵の寝泊まりと食事は客室がありますんで、ささ、こちらへどうぞ」
ウリボウに連れられ今度こそ階段を降りる。
「思ったよりも広いな」
「へえ、人身売買といえど商売ですから。皆さまにお売りする品を劣悪な環境に置くなどもってのほかでございます」
「そう、か……まあ、そうだよな」
アルがホッと息を吐く。
「では皆さまこちらの部屋で……分けた方がよろしいですかね」
「ん? ああ、ワタシは構わんが……お前はどうだ?」
視線を受けたアルはキョトンとした顔になる。
「別に気にしねぇよ、潔癖でもねぇし」
「それならいい。同じ部屋で頼む」
「へえ、ではこちらで。食事の方はすぐに用意させます。こちら今日のメニューですが苦手な食べ物なんかありますかい?」
「いや、無い」
先生は素っ気なく言って部屋に入っていく。俺も覗いたが特に苦手な物はなかった。
俺とアルが返事をするとウリボウは軽く頭を下げて奥の方へと歩いていく。
部屋に入ると先生が端の方で壁を叩いていた。
「……何してんすか」
「防音の確認だ。監視カメラも盗聴器もなし……やはり客への配慮はしてあるようだな」
「部屋もやけに豪華ですしね」
「アル、軽くでいいから足音を気にしといてくれ。神経質になる必要はないが部屋の前で止まる足音には注意してくれ」
「それはいいけど風呂入りてぇ、ここのどう使うんだ」
「設備の使い方はここに書いてるぞ」
先生が投げて寄越した冊子をめくる。ほお、大浴場まであるのか。なんだこの施設。
裸の付き合いというのに重きを置く性格では無いが……リラックスする事で出てくる話もあるだろう。
何よりヒメユリさんとの関係を詳しく聞いてみたい。
「アル、風呂入るなら一緒に行くか」
見るとアルは眉間に皺を寄せていた。
「いや、オレはこんな性格だけど恥じらいがないわけじゃないぜ」
「恥じらい?」
その言葉の意味を考えていると部屋を調べ終わったらしい先生がクッションを投げてきた。
「お前こいつらが何のために帽子を被ったりしてると思ってるんだ、馬鹿か」
「……あ、なるほど」
アルは普通に人に見えるが帽子は被っているし肌を隠した服を着ている。もしかしたらソコは獣の部分なのかもしれない。
「ごめん、無神経だった」
「いや、そんなレベルの話じゃないけど……まあ今更気にしねぇよ」
アルは用意されていた寝巻きを持って風呂場に向かう。
「メシが来たら教えてくれ、オレ結構長風呂だから」
アルが扉を閉め、先生と二人になる。
数分の沈黙の後、本を読んでいた先生が顔を上げる。下がったメガネを元に戻し、俺の方を見つめてくる。
「な、なんですか?」
「それ取ってくれ」
指されたのは銀色の簡易灰皿。側に置いてあったライターと共に渡す。
「ここ地下ですよ?」
「わかってる、その為にアレがあるんだろ」
部屋の奥、旅館とかで机と椅子が置かれている位置に向かう。上には換気扇が付いており、一応仕切れるようになっているらしい。
「じゃ、飯が来たら呼んでくれ」
そう言い残して仕切りが閉められる。
「…………」
自分で茶を淹れてすする。
なんだか、寂しい……
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