錬金術に関わりし者達の救出劇
①
先生と共に飛び込んだ黒い渦。何も見えない空間を一瞬だけ通り過ぎ、いつのまにか開けた場所に出た。
真下に見えるは沢山の木。ああ、これはこういう物なのか、それとも俺の運命なのか……
「また空じゃねぇかぁぁぁぁ!」
枝に引っ掻かれながらなんとか受け身に成功した。切り傷は多少あるが上出来だろう。
「二度も腰を壊される俺ではない! ……で、ここは何処だ?」
予想通り森の中、アルカロイドの近くのものとは違い全く人の手が加わっていない森だ。
あるのは獣道くらい……と、言う事は獣はいるのか。皆を探すにしても叫ぶのは危ぶまれるな。
「さて、どうしたものか……あ!」
そうだ! と手を叩いてPHSを取りだすが……全く動かない。あの時のスマートフォンもぶっ壊れたし、これは予想の範囲内。ならば次の手、痛くなるからあまり使いたくはないんだが仕方あるまい。
先生のように自然にはできない。息を整えて白目を剥くように……
「……っ」
才能が発動して視界が変わる。木々の生命力が邪魔だが、奥の方に違う生命力が見えた。
先生が言うには一人一人生命力の光にも違いがあるのだと言うが、俺はそこまで判別できない。
そんな俺でも珍しい混血である先生とコカナシ、そして異世界の人である智野くらいなら見分ける事が出来る。
で、見えているのはその中の一つ。明らかに光量が違うあの生命力は……
「眺めはどうですか、先生」
「うるさい、早く降ろせ」
凄まじい圧に負けて木の枝に引っかかっている先生を降ろす。
「コカナシとトモノはどうした」
「いえ、どっちもこの付近にはいないみたいです」
自身のPHSを取り出して舌打ちした後、先生が一方を見つめだした。
「……先生?」
「見てみろ、変な生命力がある」
「変な生命力?」
既に目が疲れているのだが……気になるので視界を変える。
木々の生命力の奥に見えるのは獣の生命力とソレに重なるようにある人の生命力だ。
人が獣を仕留めている? それにしては重なりすぎている。まるで混ざり合ったようだ。と、いうより
「あの人動いてない気がするんですけど」
「ああ、生命力の出方からして漏れているな。怪我をしているのだろう」
「え! じゃあここで観察してる場合じゃ……」
言いながら先生を見ると錬金をしていた。視界変えながら錬金とかどこまで器用なんだ。
「よし、行くぞ」
錬金を終えた先生は躊躇なく進んでいく。
その先には一人の男性が倒れていた。頭をすっぽりと覆うニット帽に薄いながらも全身を隠す長めの服。近くには彼のものであろう狩り用の銃とカバンが置いてある。
よく見るとジーパンの太もも辺りに赤いものが滲んでいる。獣の引っ掻き傷や咬み傷ならもう少し広い範囲の傷になるはずだ、素人の考えではあるが銃で撃たれたような感じである。
「大丈夫ですか! 応急処置しますね!」
「すまない……随分と道具が揃っているな、医者か?」
「正しくは錬金薬……っ!?」
言葉の途中で男が俺の手を振り払った。持っていた試験管が割れ、地面が薬を吸収していく。
「何をするんですか!」
「こっちのセリフだ……錬金術師がオレに触るな!」
「訳の分からない事を、止血するから大人しくしてろ」
「止血だろうと治療だろうとオレに触るな! 錬金術を受けるくらいなら……オレ……は……くそ……」
男がゆっくりと目を閉じる。これは怪我とは関係ない。
「先生、麻酔ですか?」
「強化したのを使うのは医師として御法度だが、今回はまあしょうがない」
「…………」
先生だから上手い具合に出来る芸当だ、真似はしないでおこう。
「おい、手を止めるな」
先生に咎められて応急処置を再開する。
錬金術を異様に嫌う、見たことの無い生命力の男。こいつは一体何者なのだろうか……
*
「麻酔が切れる、さっさと歩け」
「無茶言わないでください……」
さっきの男を背負っているのはもちろん俺、筋骨隆々で相当重い。
歩く事数分、先生が奥の方を指した。
「多くの生命力、しかもこいつと同じ変なのが固まっている。見えるか?」
「いえ、もう目が痛いので……」
「目薬……は無いのか。とりあえず行くぞ」
草木を分けて先生が言っていた場所へと向かう。少しすると幾つかの建物が見えた。
人もいる、どうやら村のようだ。
「おい、こいつを知っているか?」
入るなり人を捕まえる先生、相手は相当驚いていたが俺が背負っていた男を見て更に驚く。
「撃たれてるじゃないか!」
「応急処置は済ませた。弾が残ってるかは分からん、病院的な施設はあるか?」
「あ、ああ。なら村長の所に行こう、この時間ならドクターとお茶を飲んでる頃だ」
その人について村の中を歩く。周りからの視線が凄い、やはりこんな森の中の村に人が来るというのは珍しいのだろうか。
一際大きな建物のドアを叩く、中からニット帽を被った小さな老人が出てきた。小人族……ではないかな?
「おお!? どうした! 待ってろ今ちょうどドクターが……ドクター! ドクター!」
ドクターと呼ばれた青年に男を渡す。
「お前がここの長か?」
「ああ、ジュージを助けてくれたのだな、感謝する。ところで貴方達はどうしてこんな森の奥に?」
「ちょっと事情があって迷っていてな、此処がどこかも分かっていない状況だ」
「なるほど、とりあえず入ってくだされ。ちょうどお茶をしていたのです」
*
「錬金薬学……ですか」
俺たちの職業を話すと村長の顔が曇った。
「さっきの男も錬金術を嫌っていたな、何か問題でもあるのか?」
「いえ、貴方達が悪いのではないのです。そうですね、お二人はキメラについてご存知ですか?」
「ああ、合成獣だろ」
キメラは動物と何かを錬金術的に合成したものだ。もちろん動物と動物も可能で、自身の生命力を捧げることで擬似的な蘇生も可能らしい。
確かアルスも犬と様々なものを掛け合わせたキメラを数匹連れていた。
「では……驚かないで、よく見てください」
村長がニット帽をはずす。中から出てきたのは少し貧相な髪、そして……何か人間のものではない耳。
「それは……狼の耳か?」
言葉を失っていた俺に対して先生は冷静な分析をする。村長は頷いてニット帽を被りなおす。
「此処にいる者は皆キメラ実験にて動物と掛け合わされた人間です。あのジュージもまた同じ……錬金術を憎む理由はお分かりでしょう?」
なかなか衝撃的な話だったはずなのだが先生は表情を変えない。
「ならここでは普通の医者として振る舞った方が良さそうだな」
「はい、私も皆を不安にさせる気はありません。ここだけの話にしておきましょう」
村長が立ち上がり、杖をつく。
「とりあえず今日は我が家に泊まってください。貴方達が戻る為のルートは調べさせておきます」
部屋を案内しようとする村長を先生が止める。
「一つだけ聞かせろ。そのキメラ実験を行ったのはアルスという男か?」
「名前は分かりませんが……ハゲ頭の歯抜けジジイですよ」
「じゃあ違うな」
先生の表情が少し緩む。しょうがないだろうが、凄い言われようである。
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