黒が渦巻き、周りのものを吸い込み始める。

「さあ! 神の元へ! ははははは!」

 黒の近くにいたゲラシノスとニャル、それからマッカファミリーを吸い込んだ所で黒は渦を反転させ、引力を強める。

 俺と先生は近くの岩と木を支えに耐えている。

「智野! 大丈夫か!」

「な、なんとか……」

 車椅子の超速エンジンとコカナシの踏ん張りでなんとか耐えているらしい。

 このままアレが消えるまで耐えきるしかないだろう。一か八かで逃げようとするなど愚策でしかない。

 前は大丈夫だったが今回のアレが何処に繋がっているかなどわからない。もしかしたら火山の火口だったりするかもしれない。

 元の世界に帰れる可能性もあるが、俺はそこまでギャンブラーじゃない。

 とにかく、アレに吸い込まれてはいけない。


 超速エンジンは優秀なようで、車椅子に捕まるコカナシを連れながら少しずつこっちへと向かってくる。

 このままでもいいが、俺や先生のいる場所の方が安全ではある。出来ることならばこっちに引き込みたい。

 岩の裏から手を伸ばす。アレの引力に負けた砂利や草が手に当たる。

「智野……」

 もう少し、あの数センチ……

「きゃっ……!?」

 智野の身体が、車椅子が大きく揺れた。飛んで来た石がタイヤを軽く浮かしたのだ。しかしそれは致命的、なんとか保っていた均衡は崩れ、引力の方が強くなり智野とコカナシは宙に浮く。

「掴まれ!」

 残り数センチを埋めるためにギリギリまで身を乗り出し手を伸ばす。

 智野の手が指先を掠める。そのまま智野とコカナシは離れていき、黒に吸い込まれていった。

 二人を吸い込んだ黒は瞬間的に何度か渦を反転させ、少しずつ小さくなっていく。

「智野!」

 俺と同じくコカナシの名を叫んだ先生と目が合う。言葉はいらない、覚悟は決まらなくとも選択肢はない。

 俺と先生は同時に支えを離して駆け出す、狭まる黒に向かって。


 目前に黒が迫り、一瞬だけ躊躇が生まれる。弱まっていくこの引力なら方向転換すれば逃げ切れるだろう。

 いや、それは愚策だ。先程と意味は違うが逃げるという選択肢などない。


 もう、彼女を失うあの気持ちは味わいたくない。


 言葉なく、抵抗もなく、俺と先生は黒の渦へと吸い込まれていった。

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