先生とコカナシを見送った後、俺たちは五十鈴について広場に向かっていた。

「今日は言ってた森に入るんだよな」

「いえ、少し問題がありまして」

「ねえ、あれ」

 智乃が指した方、広場を見る。

 あいも変わらず猫だらけだが……

「なんか雰囲気がおかしいな」

「尻尾が下がっているけど力が入っているみたい。警戒してるんだと思うよ」

 智乃の予想は当たっているらしく五十鈴は頷いて猫たちの中心に目を向けた。

 少女が縄で拘束されている。

「なにもしないよー! ほどいてー!」

 大きな目みたいな模様がついた魔女帽子を揺らしながら少女は叫んでいる。近づいた俺たちを見た少女は目を輝かせる。

「犬の時の人! ……名前なんだっけ?」

「隆也だ……」

「タカヤ! 覚えた! 助けて!」

 いや、それ以前に……

「何してんだよ……ニャル」


 *


「助かったー」

 縄を解いてもらったニャルは大きく伸びをした。いまだ猫たちは警戒しているが五十鈴の説得で攻撃はしてこない。

「で、何しに来たんだよ」

「んー……調査?」

 なんで疑問形なんだ。

「調査ってなんの」

「あたしの目標の為」

「目標って……ん?」

 二匹の猫がすごい速さで駆けてきた。五十鈴とケイタ様が猫たちから事情を聞く。

「例の森から一匹帰還したそうです」

「話聞きに行こう」

「あたしも行くー!」

 立ち上がったニャルを見て五十鈴は苦笑した。

「監視もしなきゃいけせんし、そうしましょうか」


 *


「わたしたちは肝試し感覚で森に入りました」

 森から帰ったという猫の言葉を五十鈴が同時通訳する。

「奥に行くにつれて意識が朦朧としてきて、方向もわかりにくくなっていきました。

 そのまま進んでいくと大きな建物があって、わたしたちはその中に入って行きました。

 幾つか部屋があったのですがその一つ、そこで下半身の無い人の幽霊を見ました」

「幽霊! 待ってました!」

 静かに聞いていたニャルが突然立ち上がり声を出した。

「いや、なにを待ってるんだよお前は」

「幽霊!」

「あの……続けてよろしいでしょうか」

「あ、ごめん」

 五十鈴は咳ばらいをする。

「幽霊から逃げていると平衡感覚も失って倒れてしまいました。目を醒ましたのは翌日の夕方、帰り道に川の水を飲んでいたところでまた気を失いました。数時間後に目を醒ましてようやく帰ってこれたのです……だ、そうですが何か質問はありますか?」

「えっと、体調は」

「軽い頭痛がありますが他に異常はないそうです」

「幽霊はどんな感じだった?」

「下半身がない事以外は分かりません」

「じゃあ幽霊の」

「いや、幽霊はもういいだろ」

「ぶー……」

 ふて寝しやがった。なんて自由な奴だ……

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