「色々聞いてきたよー」

 五十鈴を頭に乗せたケイタ様が手を振りながら走ってきた。

「どうやら島の奥に原因があるようです」

「奥には何があるんだ?」

「島の中央、森になっている箇所ですね。猫たちもあまり入らない場所です」

「遠いのか?」

「はい、足元も悪いかと」

 先生は懐中時計を見て少し考えてから踵を返した。

「今日は帰ろう、疲れた」


 *


 猫島に宿などあるはずもなく、猫たちも安心できないとの事なのでケイタ様を除く俺たちの泊まりはマハラガンになった。

 ようやくゆっくり出来るとベッドに飛び込んだ、のだが……

「やかましいな」

「はい、とても」

 祭りの音が凄い。酔っ払いの叫び声に派手な装飾の踊り子、なんだこの街。

 先生と二人溜息をついているとノックの音が聞こえた。

「キミア様、起きてますか?」

「寝れるわけないだろう……開けてやれ」

 顎で使われて扉を開けると智野とコカナシが入ってきた。

「ねぇ、小腹すいてない?」

 智野に言われて意識がまわったのか急激に腹が減ってきた。晩飯は食べたが夕方だったな。

「腹は減ったけど……ガッツリという程でもないな」

「外に屋台が出てるみたいなの」

「そりゃいいな」

 財布を持って七分袖のシャツを羽織る。

 先生もコカナシに説得されたらしく外出用の服になっている。

「では行きましょう」

 先導しかけたコカナシを先生と止めて地図を取り上げる。少し睨まれたが迷うよりはマシだろう。

「何で取り上げたの?」

「覚えておけ智野、コカナシは方向音痴だ」

 左の脛を蹴られた。痛い……

 視界に入った時計が夜の九時半を指している。そういえば……

「夜は食べないとか言ってなかっ……」

 両方の脛に走った痛みで言葉が喉の奥に詰まり、情けない呻き声が部屋に響いた。


 *


「くそ、頭いてえ」

「飲み過ぎですよ」

 昨日は祭りに浮かれた謎のおじさんに煽られて酒を飲みすぎた。船の小さな揺れが最高に気持ち悪い。

 島に着くとケイタ様と五十鈴が出迎えてくれた。

「キミア。ボルが帰って来てって」

「は?」

「イスカとイスカの周りで夏風邪が流行りだしたんだって」

「夏風邪? 流行るには早いな」

「だから準備が遅れて人が足りないんだって」

「そうか……」

 少しの沈黙の後、先生は猫おじさんを呼び止めて船の方に踵を返す。

「ちょ、先生?」

「こっちは任せた。行くぞ」

「はい。エンテロウイルスの方も準備しておきますね」

 なんだかよくわからない話をしながら二人は船に乗り込む。

「じゃ、頑張れ」

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