⑥
俺たちは電車に揺られてマハラガンへと向かっていた。
マハラガンと言うのは祭りの街、様々な祭りが一年中行われているのだという。
「……あれ? 何か起こっているのは猫島だったような」
「猫島はマハラガンからの船でしか行けないのです。基本的に人間は立ち入り禁止ですけど」
どうやら本当に猫だけの島らしい。
「で、どんな異変が起きてるの?」
外を見ていたケイタ様はちょこんと座ってお菓子を食べながら話し出す。
「猫島の奥地に行った猫が帰ってこないって。帰ってきた少数の猫も奥地に行った時の記憶もないんだって」
「ワタシ達に任せるから病気か何かだと思っていたが……」
どうやら本当にケイタ様の護衛らしい。
「とりあえず現地の猫に聞かないと、僕も詳しくは知らないんだ」
話を終えたケイタ様はコカナシから貰ったお菓子を食べて笑顔を見せた。
*
「うわ、すげぇ」
そこかしこで笑いと激励が交差し、祭りの雰囲気は街全体を覆い尽くしている。
「これがマハラガンですか。私も始めて来ましたが……人が多すぎて疲れますね」
各々感想を口にしながらケイタ様について行く。裏通りを通って更に先、街のはずれの方に巨大な湖があった。
「あそこが猫島」
ケイタ様が指した先、湖の中心に小さな島があった。
「船でもあるのかな?」
「アレだろう?」
湖の端にそこそこ綺麗なボートが置いてあった。俺たちがそこに乗り込むとケイタ様が運転席に座った。
「あれ? ケイタ様が運転を?」
「あ、今日はボルいなかった。いつも膝に乗せてるから」
つまり普段の運転はボル様が……?
「じゃあ運転席どーぞ」
「いや、俺は車しか……」
「じゃあどうするの?」
俺に言われても……船なんか誰も運転した事ないぞ。
「おろ、ケイタ様じゃねぇですか」
途方に暮れていると一人の無精髭を生やした男性が手を振って走ってきた。
「あ、ネコおじさん!」
「ネコおじさん?」
「猫島に物資を運んでくれるおじさんだよ」
「て、ことは運転が?」
視線を向けると先生と話していたネコおじさんは一部が欠けた歯を見せた。
「ああ、ちょうど今から物資を運ぶところだ。お前さんとキミアは運ぶの手伝ってくれ」
「は? ワタシが? やらないぞ」
先生の言葉にコカナシが溜息をつく
「代わりに私が行きます……」
船に乗せる荷物は結構あった。中身はキャットタワーやキャットフードのような人工的な物はなく、自然で取れるようなものばかりらしい。
「重っ!? コカナシ来てくれ!」
「レディーに重いものを持たせるとか紳士さのかけらもありませんね」
「何がレディーだ、早く手伝ってくれ」
「じゃあタカはあっちの荷物運んでください」
すれ違い様に足を強く踏まれた。痛てぇなこの野郎。
さっきの荷物は流石のコカナシでも少し重いらしい。少し時間はかかったがなんとか船に乗せる事が出来た。
「じゃあ、出発だな!」
*
猫島が目前に迫った時、無数の猫がみえた。
鋭い牙を見せ、猫たちは唸り声をあげていた。毛を逆立たせ、尻尾は真っ直ぐ上を向いている。
「思いっきり威嚇されてますけど!?」
「普段僕とネコおじさん以外の人間は来ないからね。僕に任せて」
ケイタ様が先に降りて猫たちと言葉を交わす。猫の言葉だったので内容はわからないが猫たちは納得したらしく、威嚇をやめて警戒程度に留めてくれた。
俺たちが降りるとケイタ様の隣には尻尾が五つに分かれている猫がいた。
「どうも皆さん、ワタクシはここら一帯を治める猫。イスズでございます」
「また猫が喋った……」
「ワタクシは五尾の上にボル様から名前を授かりましたので人間の言葉を話すのは容易でございます」
ボル様が命名したのなら元は漢字名だろう、五十鈴といったところか。
「今日はワタクシが皆様のご案内をさせていただきます。ワタクシと行動を共にしていれば皆に警戒される事もないでしょう」
ペコリと頭を下げて先導しようとした五十鈴をケイタ様が捕まえる。
「行くほう言って」
「いえ、あの、ケイタ様?」
戸惑う五十鈴を人形を持つかのように抱え込む。
「これがいい。落ち着く」
「……ではこのまま案内させていただきます」
少し進むと大きな広場に出た。一面猫だらけである。またもや威嚇されたが五十鈴の一鳴きで広場は元の通り静まり返る。
「では聞き込みといきましょう」
「五十鈴さんも知らないんですか?」
「ワタクシも先ほど到着したところですので」
ここだけを治める猫では無いらしい。思ったより偉いのかもしれない。
「五十鈴、行こう」
五十鈴とケイタ様が数匹の猫に聞き回りに行った。
視線を感じて右を向くと智野と目が合う。
「な、なんだよ」
「猫が喋ってるのに何で無反応なの?」
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