③
アルカロイドを出た俺たちは資格試験が行われた街、ツェットにたどり着いた。
もう夕方くらいなので今日の旅はここまでだ。
「ようこそツェットに、よく来たんだな」
駅で出迎えてくれたのはヨロズさん。彼は智野を見て数回頷く。
「よしよし、見た感じ問題はなさそうなんだな。このまま来るな?」
「ああ、頼む」
先生の返事を受けるとヨロズさんは歩き出す。
「あの、何処に?」
「これだ」
智野の車椅子を叩く。
「いつまでも古いのじゃ不便だからな。新しいのを頼んでおいた」
「これが自信作、車椅子ヨロズスペシャルだな!」
自慢気にしているが普通の車椅子にしか見えない。
「とりあえず乗ってみるんだな」
コカナシのサポートを受けながら智野ら車椅子を乗り換える。
「まずはこのボタン!」
電子音と共にタイヤの中心から金属製の棒が出てくる。
少年心をくすぐる機械音と共に棒が変形し、足のようなものになる。
「これぞ階段昇降用歩行装置! 荷物合わせて100キロまでしか持たないから注意するんだな」
「そしてお次は!」と違うボタンが押されると同時にエンジン音が鳴り響く。
「……エンジン音!?」
「そう! エンジン音だな! 最高速度は驚きの90キロ! 使うときは保護機能を忘れずにな」
保護機能を使うと未来の乗り物みたいになった。
「智野! すごいなこれ!」
「ん? うん、そうだね」
微妙な反応だ。コカナシもさほど興味はなさそうだし、先生に至っては置いてあった本を勝手に読んでいる始末だ。
なんだか腑に落ちないでいるとヨロズさんに肩を叩かれた。
「これは男にしかわからないものなんだな」
「男のロマン、というやつですか」
「ま、そういうものだな。ところで今後付け足していこうと思っている機能の相談を誰かに頼みたいんだが……」
「是非とも! 是非とも俺が相談に!」
*
「機能は置いといて、乗り心地はとても良いよ」
「バッテリーの持ちも格段と良くなったしな」
「この御一行、よろしいだろうか」
他愛のない話をしながら静かな走行音の車椅子の試験走行をしていると、いかにも紳士といった出で立ちの男性が笑顔を浮かべて近づいてきた。
「呼び止めてしまって申し訳ない、同胞よ」
俺たちは顔を見合わせる。全員の顔から疑問符が浮かんでいるのを確認して先生が一歩前へでる。
「ワタシたちとお前は面識がないはずだが?」
「友人らしくみえる人々は、おおかた友人にあらず、
かく見えぬ人がおおむね友人なり。我らは見えないところで繋がりがあるのですよ」
先生が下がって俺を前に出す。押し付けられた……
「あの……その、誰ですか」
「おやおや、これは失礼」
男はシルクハットを取ってお辞儀をする。
「我が名前はゲラシノス。トリスメギストスの代表でございます」
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