大収穫祭から二週間ほど過ぎ、去年と同じくマンドレイク風邪が大流行した。

 俺たちにとってそれは絶好の稼ぎ時であり、一昨日までは死ぬほど錬金をさせられた。

 流行のピークとなった今日は店番である。一円でも間違えるとコカナシから何を言われるかわからない。


「失礼、アナタがここの店主ですか?」

「え? いや、俺は違いますけど」

 話しかけてきたのは細身で高身長の男。凄まじい天然パーマはまるでターバンのようだ。

彼は俺の手にある指輪に目を向けた。

「ふむ、しかしアナタは錬金術師だとお見受けしますが?」

「え? ああ、俺も錬金薬学師ですけど……あれ?」

 男の指にも錬金石付きの指輪がある。

「気づきましたか。ワタクシも錬金術師……いや、錬金発明家ですかね!」

「錬金発明家?」

「錬金薬学と同じ思考ですとも。錬金術を利用した新しい化学製品の発明! ……おっと、申し遅れました。ワタクシこういうものです」

 名刺を受け取る

『作業代行社・マッカファミリー

  社員 カリ・ボッチー』

「作業代行社?」

「有り体に言えば何でも屋、ですかね。ほら、アナタも名刺を」

 カリさんがそういうとカウンターの下から名刺を持った手が伸びてきた。

 受け取りながら覗き込むと小さくて小太りな丸っこい人がこちらを見ていた。白生地に黒の水玉模様という服も相まってどこか牛を連想してしまう。

「……モウ」

「……あ、どうも」

 名刺を受け取ってポケットに入れる。

「名刺はありませんがこの店の薬の一部を作っている御内隆也です。せんせ……店主に用があるんでしたっけ?」

「ああ、それはアナタでも構いません。少し人を探していまして」

 見せられた写真には魔女のような帽子を被った少女が写っている。少し幼いが……

「ニャル?」

「おやおやおや! 知っていますか! そうですか!」

「あの……ニャルとどういう関係で?」

「錬金術師としての知り合いと言ったところですね! いや、一応同じ団体の仲間ですか」

「団体? ニャルも何でも屋を?」

 カリは人差し指を立てて左右に振る。

「ノンノン。トリスメギストスという宗教団体です」

「宗教?」

「まあ、ワタクシ達は全く信仰などしていませんが。あくまで雇われでっ!?」

 後ろから伸びた手にカリさんが殴られた。

「喋りすぎだよ!」

 カリさんを押しのけて前に出てきたのは赤装束の女性。なんだか目の周りまで赤い。

「うちのカリが失礼したね。アタシはこいつらのリーダーのマッカだよ」

「ご丁寧にどうも……」

 名刺が三枚に増えた。

「で? ニャルの情報はあったのかい?」

「マッカ姐、今それを聞いていたところでして……」

「ふうん」

 鼻を鳴らしたマッカさんは写真を取り上げて俺に向ける。

「ニャルって子だ。見たことはないかい?」

「ありますけど……なんでさがしてるんですか?」

「さあね。アタシ達は雇われ、上の事情なんか知らないよ」

 ……怪しい。

「理由が言えないなら俺も話せません」

「ふうん……」


 少しの沈黙の後、マッカさんは背を向けた。

「ならしょうがないね。時間を取らせて悪かったよ」

 意外とすんなり帰るな。そう思っているとマッカさんが小さくクシャミをしてま俺の方を向いた。

「忘れてた……マンドレイク風邪の薬を三つお願いするよ」

「え、あ、はい。ありがとうございます」

 目が赤いのはそのせいだったか……

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