「でっ……けぇ」

 俺たちは近くの街に来ていた。目の前にあるどデカイ建物は国立病院なのだという。

「受付を済ませてくるからお前らは待ってろ」

 慣れたように入っていった先生は近くにいた医者らしき人を捕まえて何やら話を始めた。

「そういや元々の用事って何だったんだ?」

 ここに来たのは智野の検査の為、しかし前に先生が用事があると言っていた。

「私も定期検診があるので」

「人間ドッグですか?」

「まあ、そんな所です」


 他愛のない話をしていると先生が帰ってきた。

「コカナシはいつも通りの場所。トモノには案内が来るから……タカ、お前はトモノの付き添いをしろ」

「りょーかいです」

「貴女がトモノさんかしら?」

 突然聞こえた声に智野の身体が飛び跳ねる。

「あらあら、ごめんなさい。驚かすつもりは無かったのよ」

 そう言って笑ったのはガタイの良い……女性?

「アタシはミモザ、コカナシちゃんの担当医よ。性別上は男性だけど女性には興味が無いの、因みに貴方みたいなひょろっこい男にも興味ないわ」

 自己紹介ついでに馬鹿にされた気がする。

「トモノさんの担当はもうすぐ来るからね、いきましょコカナシちゃん」

 二人がミモザさんについていってしばらくすると智野の担当が来た。

 そのまま智野は検査室に入っていき……俺は一人取り残された。


 *


「……暇だ」

 検査は数時間ほどかかるらしい。検査室に入る事も出来ない。

 喉が渇いたので給水所を探していると先生を見つけた。壁に貼ってある案内図を見ているようだ。

「自販機とか書いてます?」

「ん? ああ、ちょうどよかった」

「智野の検査ならまだまだですよ」

「用事があったのはお前の方だ」

 先生はもう一度案内図を確認して顎で俺に合図をした。

「移動するぞ。ついてこい」


 *


「二人、禁煙で頼む」

 ウェイターに案内されて個室に入る。病院内にカフェというのも驚きだが……

「喫煙席もあるんですか?」

「……お前吸ってたか?」

「いえ、病院内なのに……と」

「ああ、そういうことか」

 水を飲んで先生は注文を済ます。

「ここは病状を説明するのに使う事が多いからな。だから個室にもなっているし、聞く側が落ちつくために喫煙席もある」

「珍しいですね」

「まあ、この国では此処だけだろうな……っと、そういう話をしにきたんじゃない」

 話に耳を向けながら運ばれてきたケーキを食べる。おからケーキだ、これ。

「何か疑問があるだろう?」

「疑問、ですか」

 こんな所で話すと言うことは此処に来てから生まれた疑問だろう。少しの間考え、唯一でたソレを口にする。

「コカナシの検査の理由、ですかね」

「ああ、そうだな」

 人間ドッグ的なものかと智野が聞いた時も何となく誤魔化していたように思う。

 巨人族と小人族の混血ゆえの定期検査……と、いうのは少し弱い。それにコカナシはハッキリとそう言うだろう。

 つまりコカナシが隠したい、または話しにくい事。そう思って聞かなかったのだが……

「先生が話すんですか?」

「放っておけば自身から話すだろうが、少し話しにくいだろうからな。ワタシが代わりに話す」

「なるほど」

 姿勢を正して耳を傾ける。

「コカナシの故郷がアルスの実験に使われた話はしたな」

「はい」

「その話の続き、深い所まで話をしよう」


 *


「その時アルスが作っていたのは分解薬。錬金術の結合を解く薬で、完成すればある程度素材の再利用が可能になるモノだ。

 しかしそれを使う事で素材が変質しては意味がない。そこでアルスは変なものに反応しやすい人の体で実験を行うことにした。

 アルスは錬金術を駆使して料理をし、村の人に振る舞った。その後分解薬を盛る事で実験を行った。

 成功したならば住民が消化不良を起こす、その程度のものだった。

 しかし、実験は失敗した」

 先生は一度喉を潤し、また口を開く。

「分解の効能が強すぎた。その分解薬は錬金術の結合だけでなく、様々なものを分解していった。そう、例えば……内臓とか」

「内臓!?」

 そんなもの分解されたら……

「住民は倒れ、次々と死んでいった。アルスはその実験結果を見回っていた時にコカナシを見つけた。

 アルスはその希少な身体に素材的に魅力を感じたのだろう。死にかけているコカナシの治療を始めた」

「治療って、内臓が分解された人の治療を?」

 先生は頷く。

「周りの人の僅かに残った内臓を繋ぎ合わせて一つの内臓にする。ありえない事だがアルスはそれを成し遂げた」

「つまり……コカナシが検査を受けているのって」

 衝撃で生唾すら飲み込めず、水で無理やり喉を潤す。

「コカナシの内臓は……自前のじゃないって事ですか」

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