巨大マンドレイク捕獲作戦から数日。仮死状態だったマンドレイクは標本にされ、町のオブジェとなっている。

 今回の事件は地方紙にも載せられ、マンドレイク大収穫祭は例年よりも大規模なものになると町の人たちは張り切っているらしい。

「……で、これはその一つというわけか」

「そのとおりさ! これこそ僕の作りしマンドレイク土産! 名産になる事間違いなしだ!」

 いきなり家に突撃してきたアデルが取り出したのは緑色の和菓子。マンドレイクのように細く、小豆で顔が表現されている。

 形的に近いのは登り鮎辺りだろうか。

「まあ、マンドレイクらしさは出ているな」

「そうだろう? とりあえず食べて見てくれ」

 押し付けるように渡され、一口齧る。

「こ……れは……」

 草。ひらすらに草である。草餅の爽やか草の匂いとかじゃ無く、土のついた草らしい草なのだ。

「おまえ、まさかこの中に……」

「気づいたかい? そう、マンドレイクを入れてみたんだ。栄養が菓子とは思えないほど詰まっているぞ!」

「ああ、確かに菓子とは思えないな……試食はしたのか?」

 アデルは苦笑いを浮かべる。

「甘いものは嫌いじゃないけど餡子はあまり好きでは無くてね。でもアンケート的には饅頭がやはり定番だというわけだ」

 俺は食べかけの饅頭をちぎってアデルの目の前まで持ち上げる。

 疑問符を浮かべるアデルの口が開いた瞬間、ソレを勢いよく突っ込む。

「苦手とかそういうレベルじゃねぇから一回食べてみろ!」


 *


「草……草じゃあないか……」

 青い顔をして帰っていくアデルを見送ってからリビングに戻ると智野がいた。

 机に座って真剣に何かをしている。コカナシのレシピでも書き写しているのだろうか?

「なに書いて……え、何それ」

 智野が書いていたのは勾玉を引き伸ばしたような形の何か。

「アデルさんからね、リーフ・デ・オーベルの土産案が欲しいほしいって言うから考えてるの」

「マンドレイク大収穫祭な。で、これは?」

「隆也、マンドレイクの別名って知ってる?」

「マンドラゴラとか……アルラウネもそうだっけか」

「そうじゃなくて、和名」

 和名といえば三つ葉のクローバーなら白詰草とかそういう感じだった筈だ。

「マンドレイクの……和名?」

 語尾に疑問符をつけて暗にわからないと返す。

「マンドレイクの和名はね、恋なすびっていうの」

「恋なすびぃ?」

 あの狂喜乱舞しながらタネを蒔くアレが? 恋なすび?

「てかそもそも茄子だったのか」

「ナス科なんだって。でね、恋なすびって名前だから縁結び的なモノに出来ないかなって考えたの。『運命の人と出会わせてくれる出会いの恋なすび』みたいな?」

「なるほど。それでコレ、か」

 もう一度智野の絵を見る。確かに先に行くほど細くなっているフォルムとやる気のない顔みたいな模様はマンドレイクに似ている。しかし……

「こう、勾玉みたいに曲げないで伸ばした方がマンドレイクらしくないか?」

 言った瞬間智野は小さく頰を膨らませる。

「それじゃあ意味ないよ」

「そうか……そんなものなのか。まあ、頑張って」

 少し考えたが、何がダメなのか全くわからなかった。

 饅頭の最悪な後味を消そうとそのまま台所に向かう。

「コカナシ、何か味の濃いやつなかった?」

「上から二番目の扉の奥の方にあります。私も少ししたら休憩するので箱ごと出しておいてください」

「おう、あの赤いやつだな」

 手前の箱を避けているとコカナシが口を開いた。

「元々あんな感じなのですか?」

「ん? 何が?」

「タカとトモノの関係です」

 少しドキッとしたが平静を装う。

「関係? 何かおかしいか?」

「一見仲が良いように見えますが、最後の一押しで遠慮しているような……そう、恋人と言うより幼馴染とか親友のように見えてしまうのです」

 何その凄まじい推理!? 怖いんだけど!

「まあ、なんだ、いきなり年の差になったからな。色々どうなんだろうなって」

「年の差、ですか。問題ないとは思いますが気になるなら直接聞いて見ればいいのでは」

「無茶いうな」

「タカはヘタレですもんねー」

「……うっさい」

 菓子をいくつか持って立ち去る時、コカナシの小さな声が聞こえた。

「今日のタカは張り合いがありませんね」

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