『皆の衆! よくぞ集まってくれた! 今日は天気も良く太陽も僕たちを歓迎してくれているようだ! 今回の作戦では……あ、ちょ、僕の』

 アデルからマイクを取り上げたコカナシが咳払いをして口を開く。

『巨大マンドレイク捕獲作戦です!』

 集まったアルカロイドの男たちが雄叫びに近い声をあげる。テンション高いなぁ……

「娯楽の少ない田舎だからね、皆面白くてしょうがないのさ」

 いつのまにか隣にいたアデルはマイクを取られたからか少しテンションが低い。

「ナディはどうしてるんだ?」

「いつものようにセルロースの所さ、後で差し入れでもしないとね」

『本日の目的は単純、一番太い根を刺激する。それだけです!』

 いつのまにかコカナシがリーダーのようになっている。

「なんだか生き生きしてるねぇ」

「あいつはマンドレイクをストレス発散相手と思っている節があるな」

 隣に並んだ先生の服装はいつもより動きやすい、汚れてもいいモノだ。

「あれ? 先生も参加するんですか?」

「ワタシは巨大マンドレイクの番人だ。仮死状態になれば報告する」

「その手に持っているのは?」

 先生は折りたたんだ布を片手に抱えている。テントかな?

「巨大錬金釜の少し小さいやつだ。持ち運びできる簡易タイプ」

「なんでそんな物を?」

 聞いた瞬間、先生の目が光る。

「いざとなったら錬金するためだ」

「生け捕りと言っただろう!?」

 アデルが叫ぶと同時に、巨大マンドレイク捕獲作戦は開始した。


 *


「……ないねぇ」

 作戦開始から数時間、未だマンドレイクは仮死状態になっていない。

 俺とアデルは疲れたのでお茶をしている。外でやるお茶というのも中々良いものだが、少し寒い。

「この巨大マンドレイクは毎年いるのか?」

「いや、去年と今年のアレ。確認されているのらそれだけだ」

「原因はなんだろうな」

「調べてもらったけど突然変異くらいでしか考えられないって」

 突然変異、ねぇ。確かイアンもそうだったな。

「突然変異って言っても二年連続だぞ? 何か理由があるんじゃないか?」

 アデルは腕組みをして唸る。

「マンドレイクはあれで植物だからね。身近な所で言うと四つ葉のクローバーは踏まれたりすると出来るから……あれ、踏まれて四つ葉は突然変異とは別だっけ?」

「いや、知らん」

 遺伝子操作による品種改良的な巨大化……ってのは現実味が薄いか。

「あるとしたら何かしらの外的要因ってところか」

 呟いてポケットで振動し始めたPHSを取り出す。

 そう、少し前からこのアルカロイドでも繋がるようになったのだ。

「誰だい?」

「智野」

 先生からお古のPHSを貰ったらしい。

 ボタンを押して電話を取る。

「智野?」

『あ、隆也。今どこ?』

「まだ森の中、全然みつからねぇ……」

『大変だね』


 少しの沈黙。


「あの、何か用事があったんじゃ」

『あ、そうなの。そろそろ昼食だから帰ってきて。うん、それだけ』

 返事をする前に通話は終わる。

「なんだって?」

「飯だってさ」

「確か炊き出しをしていたのだったな! 楽しみだ」


 *


「いやぁ、美味であった」

「びみであったー!」

 食べ終わったナディがアデルの動作を真似する。あまり影響されてはいけないぞ。

 そんなナディを見つめていた智野はふと思い出したように口を開く。

「そういえばコカナシさんは? さっき少しだけ見かけたけど」

「先生のところに飯を持っていった」

「そういえばキミアさんとコカナシさんは姉妹……ではないよね」

「ん、ああ。なんだろな、コカナシは同棲って言い張ってるけどな」

 そこら辺はややこしい。正確には保護という事になるのだろうか?

 説明するにはアルスとか過去の話になるが、流石に本人の許可無しというのはいけないだろう。

「ま、色々だ」

 渋々ながらも納得した智野は次の質問に移る。

「キミアさんって男なの?」

「…………」

「…………」

 沈黙が流れる。

「アデル。先生と付き合い長いだろ? 答えてやれよ」

 アデルは眉間に皺をよせて唸る。

「確か男だったと思うが……そういえば本人の口から聞いたことがない」

「何か隠す理由があるのかな」

「ああ、それなら」

 一度聞いたことがあった。その時の先生の答えは「黙っていれば男女どちらのサービスも受けれる。割引とかいいぞ」だった。

「タカの見解はどうだい?」

「まあ、アデルと同じ。男じゃないかなって」

「ああ、男で正解だ」

「うわ! キミア! マンドレイクの監視はどうしたんだ!」

 先生は机にあった茶菓子を摘む。

「コカナシに任せてる、読む本が無くなったから取りにきた」

「なるほど……ってちょっと待て! 今サラッと公式発言があったぞ!」

「ん? ああ、ワタシの性別だろ? 言ってなかったか」

「隠してるんじゃなかったんですか……」

 先生はキョトンとした顔になる。

「……? そんな事言ったか?」

「いや、だって俺が来たばかりの頃」

 そう、俺は先生に直接聞いたのだ。しかしその話は適当に流されてしまったのだ。

 てっきり俺は隠す理由があると思っていたのだが……

「あれはお前をからかって遊んでいただけだ。寧ろまだ知らなかった事に驚きだ」

「ええ……」

 恐らく全員が心の中でため息をついた。

 そんな空気を気にもせず先生は伸びをする。

「早く帰りたいからさっさとマンドレイクを見つけろよ、お前ら」


 *


「さて、どうしたものか」

 一人森の中で呟く。アデルはナディを帰してから来るという。

 言われていた所はあらかた探し終わった。何度も根を掴んだが巨大マンドレイクの太い根では無かったらしい。

 目の前に見えるは例のマンドレイク網。念のため絡まった全ての根を掴んでみたが成果はない。

 そろそろアデルも追いついてくる頃だろうか。ここを集合場所にしているし無闇に動くのは得策じゃないだろう。

「……それにしても面白い木だな」

 あの時同じようにアデルを待っている時に見た枝も葉もない木を見上げる。

 どこからか鳥の群れが降りてきて、一匹がその木の頂点に止まる。少しすると木が少し揺れた。

「……ん?」

 何故揺れた? 風も吹いていないし鳥が止まった衝撃で揺れるようなサイズの木ではない。

 なにより幹が揺れるというのがおかしい。

「まさか、な」

 数時間探した結果がこれとか……そんな事はないだろう。きっと太い根は地中とか難しい場所なのだ。

 根のため幹だけの木を蹴ってみると跳ね返されて尻餅をついてしまった。

 木にあるまじき不思議な弾力に驚いて顔を上げると幹らしきソレを顔面で受け止める羽目になってしまう。

「痛い……けど」

 硬くはない。重さも抜け出せない程ではなく、何より木ではありえない程の水分を含んでいる。

 嫌な推論が確信に変わった瞬間、警報用に使われる町のスピーカーから先生の声が聞こえてくる。

『えー、マンドレイクが仮死状態になった。保存担当者はさっさとこい』

 うわぁ、面倒くさそうな声。最後にはあくびまでしてたぞ。

 ともかく、これでマンドレイク大収穫祭は決行されるだろう。

「タカ、終わったらし……どわ! なんだそれは!」

 後から来て驚くアデルを見て苦笑いを浮かべる。

「これがマンドレイクの太い根さ」

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