③
「……ぐふぅ」
マンドレイクの網の近くで待っていると死にそうな顔のアデルが地を這うように歩いてきた。
服も靴もボロボロ。ご自慢のローラーシューズは途中で壊れたようだ。
「見てみろよ、この木枝も葉も無いぜ。太い幹しかねぇ」
「そんなのどうだっていい……なぜ君はそんなに元気なんだ……」
「お前十分くらいずっと逃げてたの?」
「それしかないだろう。カプセルは一度開くと閉まらない仕組みだし……君のは閉まったとか?」
俺はかぶりを振る。
「はずした」
「……へ?」
言葉が理解出来ていない様子のアデルを見て俺は内心ほくそ笑む。
「カプセルを取ればいいんだよ」
瞬間、顎が外れたように口が開く。まさに驚愕といったところだ。
「なん……だと……確かに……」
一呼吸置いてアデルは俺を見る。
「なぜ教えてくれなかったんだ!」
「お前が先に行ったからだろ」
「…………」
項垂れるアデルの肩に手を置いて俺は笑みを浮かべる。
「約十分の全力疾走ご苦労さん。親友よ」
*
「さて、今度こそこの網の先へ行こうか」
アデルがカプセルを開けて近くの茂みに放る。またまたよく分からない臭いが立ち込めると網が分離してカプセルを求めて動き出した。
「今だ!」
網の先へ進み、更に数分歩いたところでアデルが足を止める。
「進むに連れてマンドレイクが元気になって行くな。やはりこの先に原因があるのだろうか」
マンドレイクの些細な変化はあまり分からない。見てもしょうがないと景色を眺めていると、前方の方に大きな黒い影が見えた。
「あれ何だと思う?」
「ふむ、この距離で見えるとなると中々に大きいな……怪しい! あれこそ元凶か!」
いきなり元気になったアデルが走って奥へと行ってしまう。
行き先は分かっているのでゆっくりと歩いて追いかけているとアデルが回れ右をして帰ってきた。
「どうした?」
「あれ、まじ、やばい、また、いた」
本当にどうしたんだコイツは。語彙力を捨ててきたのか?
「と、とりあえず君も見てみるといい。すぐに何かわかる」
風に揺れる葉、勝手に動く根。それはマンドレイクのものだ。
しかしこれは……
「大きいな」
見えているのは上の方だけだが、恐らくは去年の巨大マンドレイクより大きいだろう。
「こいつがここら辺一帯の栄養を根こそぎ取っていたのだろう。この周りのヤツはとてもよく育っている」
俺はもう一度巨大マンドレイクを見て口を開く。
「帰ろう!」
「おうともさ!」
*
家に帰り、アデルと茶を飲みながら話し合う。
「で、あの巨大マンドレイクはどうするんだ? 薬で枯らすか?」
「そんな事するわけないだろう! あれは良い宣伝になる。もし標本のように保存できたならリーフ・デ・オーベル、いやさアルカロイドのシンボルとなるだろう!」
「生け捕りねぇ……出来るか?」
「否、僕たちには無理だろう。なので専門家にお願いする!」
「専門家?」
「ご登場いただこう! マンドレイク捕獲の専門家!」
アデルが指した先、台所から智野が出てきた。
「えっ? あの……なんでしょう?」
「……いや、すまないミス・トモノ。コカナシちゃんを呼んで貰えるかな」
「あ、なるほど。ちょっと待ってくださいね」
智野が戻るとアデルは咳払いをする。
「ではでは! 謎に包まれた専門家の正体は……」
「コカナシだろ」
「な、何故分かった!」
「わけのわからない即興コントを見せられる為に私は呼ばれたのですか?」
コカナシに溜息をつかれてアデルはおとなしく座る。
「うむ、専門家はコカナシちゃんである」
「アデルは綺麗な状態で捕獲して欲しいと言ってるけど……どうするんだ専門家」
「他のと変わらないです。一番太い根を刺激すれば仮死状態、その間に掘り起こす、です」
専門家を呼ぶ必要はあったのか。いや、出番はこれからか
「根はここら一帯にあるみたいだぞ。どうやって一番太い根を見つける?」
「はい、それも単純です」
コカナシは俺の茶で喉を潤す。
「ズバリ、人海戦術!」
「…………」
やっぱり専門家いらねぇ!
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