③
「錬金方法は問題ないな?」
「はい、確実に」
智野への錬金術前日、俺は先生と最終確認を行っていた。
「最後に素材。細かいのはコカナシが混ぜてるからそれを使う、メインとなるのは四つだ」
「四つ? そんなに少ないんですか?」
「その代わり全て高い効果が必要だ。種類は少ないが甘く見ていると生命力を持っていかれるぞ」
「……やっぱり高価なんですか?」
先生が吹き出す。ひとしきり笑った後ようやく口を開く。
「こんな時までそんな心配か! ……本来相当な値段になるがそこは安心していい」
理由を聞く前に先生は後ろの棚から一つの石を持ってきて机に置く。
「まずはお前が白狼から手に入れた亜鉛石。これだけ密度が高いなら充分だ」
次に置かれたのは毛のないネズミ。確かこれは……
「アカサギがいた監獄の時の……?」
「そうだ、ヒトに近い細胞を持つヌードマウス。動きが止まっている細胞の復活にこいつを使う」
三つ目は動く植物。……いやいや。
「これ、マンドレイクですよね」
「ああ、マンドレイクだ」
「確かに治癒効果は高いですけど……これがメインの一つに?」
「元々はより治癒効果の高いアルラウネを使う予定だったが……これが異常なまでに良いやつでな。ワタシも始めて見るほどだ」
「え、それこそ高そう……」
最初二つは偶然手に入れたものだったがこれは相当なものなのだろう。
「お前はそればかり気にするな……葉のところを見てみろ」
マンドレイク慎重に受け取って葉をめくる。幾つかある葉の一つにバツ印が描かれている。
「これ、見たことあるような気がします」
「ああ、目の前でワタシが描いたサインだ」
少し考えて思い出す。確かマンドレイク大収穫祭の時に上手く仕留められたマンドレイクだ。
「で、最後が……これだ」
「……うわ」
思わず顔がひきつる。見ただけであの時の痺れが蘇ってくるようだ。
目の前にあるのはこの世界で最初に俺が触ったモノ、手のような形をしたキノコ。そう、これは
「ハンドテダケ……」
「正式にはマメザヤタケモドキ。マメザヤタケと違って強い痺れ毒を持つ……というのは身にしみているだろう」
「そりゃあもちろん。でもこれをどう使うんですか?」
薬と毒が表裏一体なのは理解しているが、あの痺れに治癒効果があるとは思えない。
「今回の素材は人間の身体にない物が多い。もし智野の身体が素材を異物と認識してしまったら錬金は困難になってしまう」
「つまりこの毒がそれを抑え込むって事ですか?」
先生は満足そうに頷く。
「簡単に言えば天然麻酔だな」
「じゃあこの四つがメインの……」
言いかけて気づく。
「これ、全部俺が見つけたヤツじゃないですか」
「ワタシも最初は驚いたが、これは偶然ではない。お前の力だ」
「俺にそんな特殊能力はないですよ」
「いや、お前には錬金術的才能があるだろ?」
「え、でも……」
俺の錬金術的才能は未覚醒で先生の目のような便利さはない。系統は同じだが今の俺では無意識のうちに適切な素材を選ぶくらいしかできない筈だ。
「あ、そうか」
俺が一番大切に思っていたのは智乃の為の錬金。つまり俺は……
「俺はずっとこの時の為の素材を探していたのか」
「ま、そういう事だな」
先生は素材を片付けて真っすぐと目線を合わせてくる。
「この一年間の集大成だ、全力で挑め。そうすれば成功する」
「もちろんです」
自室に戻って机の上に置いてある錬金用の指輪を見つめて呟く。
「ようやくだ……絶対に成功させてやる!」
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